第787話 お前にだけは言われたくない


 俺は閻魔様に人魔一体をやりたいと言われ続けたが、俺は懇々と今はできない、後でしよう、正直俺もやり方は分からない、と言うことを説明した。


 そしてついに理解したようだ。私たちの意見が噛み合わないことが。


「あぁん? なんでできねぇんだよ!」


「だーかーらー、俺もやり方分かんないって言ってるだろー!」


「よし分かった、じゃあこれはもう戦いで決着つけるしかねーなぁ? でもさっき拳で殴り合ったから今度は人間界でどっちが多く人を殺せるか勝負しようぜ!」


 どうしてそうなる? だけどもうこれで言い合いが終わるならそれでいい。何でもいいから早くやろう。


 そうして俺らは人間界の上空に来ていた。


「ほーやっぱ人間共の数は多いなー! ま、それぞれの強さだと獄界の奴らの方が何倍も強えーけどな!」


 はいはい、そうですね。まあ、ぶっちゃけると、行けるようになるタイミングがいつかは知らないけど、そういう設定をされているのは間違い無いだろうな。だって逆に獄界の奴らが弱かったらなんか嫌だもん。


「よし、じゃあ今からこっから右を俺が倒すから、お前はこっから左な? じゃ、勝負だからな? よーいどん!」


 そう言って閻魔はビューンと飛んでいってしまった。


「……」


 閻魔様って、もしかしてINTをSTRとかに全ブッパしてたりする? 今のは流石の俺でも見過ごせなかったぞ? だって、空中で線を引くようにこっからここまでなって言って始めるなんてことあるか?


 閻魔ともなれば普通に飛べるんだ、すげーなーって思ってた俺の純粋な心を返して欲しい。


 それに、恐らくだけど、この勝負負けてあげないと勝つまでやるって言いそうだし、俺がここで変にまたスキルを強化してしまうと追いつくまでやらされる可能性もあるので、俺はここでのんびりさせてもらうとしよう。


 ってか、制限時間とかどうするんだ? ……見切り発車ってこういうことを言うんだな。


 そして、真上に日が登っている時に始まったこの勝負は気付けば西日が傾く頃になっていた。


 閻魔様はまだ帰ってこない。どれだけ虐殺の限りを繰り返しているのだろうか? 逆に心配になってきたぞ? 人間界が。


 そして、遂に完全に日が沈んだ時、今日の主役が帰ってきた。


「プハー倒した倒した! 倒しすぎて途中からもうわけわかんなくなるくらい倒したぜ! いやー、気持ちよかったな! な?」


 俺に同意を求めるな。それに、コイツもう完全に勝負とかスキルのこと忘れてないか? もう、一体何のための殺戮だったんだ?


「あ、そうだそうだ。スキルを燐炎まで進化させたぜ! これでお前と同じだな! 流石に閻魔ともあろうものが獄界のスキルで遅れをとるわけには行かないからな!」


 おう、流石にこっちに来た目的は覚えててくれたみたいだな。だが、これで完全に勝負に関しては忘れてるってことが判明した。


「そうだな。俺も気が向いたらそのスキルも進化させておかないとだなー」


「ん、そんな急ぐ必要はないぞ? お前があげたら俺もまたあげないと行けなくなるからな! やるならゆっくりだぞ?」


「はいはい、わかったよ」


 俺は基本他人に対しては敬語を使う癖がついてしまってたのだが、閻魔様の前だと自然にタメ口が出るようになった。もしかしたら、良い友達になれるかもしれないな。


 だけど、もう当分獄界には来ないでおこう。友達と毎日会うのはしんどすぎる。

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