第786話 拳による語り合い
それからも閻魔様との殴り合い、いや本人からすれば語り合い? が続いた。
「オラオラそんなもんかよ我が友よ!」
あー、閻魔様って友達にしたら急に距離感近くなっちゃうタイプかー。いや、別に嫌って訳じゃないけど心の準備がさー。
それに、閻魔様はしっかりと強いから手を抜くこともできない。抜いたら抜いたらでバレて怒られそうだし。
厳しい攻撃が続くが俺は何とか避けながら最善手を探す。だが、流石は大王様、隙を見せてはくれない。
「くそ、しゃらくせーな! もう、そこまでちょこまかと逃げるっていうならこっちだって決めてやるぞ? くらえ、【燐火】」
あ、それなら俺も。目には目を、歯には歯を、火には火を、だよな?
「【燐炎】」
バゴンッ
互いの青い火球がぶつかり合い、当たりが黒煙に包まれた。
「ほう、お前も燐に到達したのか。って、もう燐炎になったのか?」
いつの間にか再び背後に回られてそう言われた。もう燐炎になったのか? と言われても俺は半分ズルしたようなもんだからなー。それに、今の感じを見ると炎の威力で言うと閻魔様の方が少し弱いくらいでほとんど変わらなかったし。やっぱ閻魔様は強いんだな。
「ま、今日はこのくらいにしてやるよ。にしても、前は鬼火だったのにもう燐炎になったのかよ。こうなったら俺も負けてらんねー、俺も最近サボってたけどまた修行するか!」
俺の肩をポンと叩きそう言った。修行をするか、と言った閻魔様の顔は少し、いやかなり怖い顔をしていた。赤ちゃんなら泣いてしまうような顔だ。
「ん、そういえばなんで魔王である我が友はこっちに来たんだ? 俺とそんなに戦いたかったのか?」
おい、全然分かり合えてねーじゃねーかよ! 拳で語り合おうぜって言って始まった今の時間は何だったんだよ。まあ、閻魔らしいっちゃらしいが。
「今日は俺の魔王としての装備をここで作って欲しくてな。俺は人間としての顔もあるから、この装備だけだと色々都合が悪いんだ」
「ほーん、なんか魔王も面倒くさそうだな。ま、そう言うことなら獄界の一流鍛治職人たちに作らせるから待っとけよ。あ、そうだ、俺の装備も一緒に作らせてしまおう。最近、この格好にも飽きてきたところなんだよな。おい!」
そう言って閻魔様は使い走りのような人に要件を伝えた。これだけで獄界仕様の装備が作れるのか。権力者とは仲良くなっておくべきだな。
「あ、そうだ。出来上がるまで結構時間かかると思うから、ちょっと暇つぶしていけよ、な?」
「いや、俺はちょっと向こうで用事がーー」
「な?」
「は、はい」
「よぉし! なら今から狩りに行くぞ! 魔王が燐炎なのに俺が燐火なのはおかしいからな! あ、そうだ。せっかくだから俺を人間界に連れてけよ。そっちの方がいっぱい獲物がいるんだろ? 俺もそっちで狩りしてみたいぜ!」
これも断れない奴だな。権力者に借りを作るべきではないな、うん。
「分かりました、では少しお待ちください」
「おいおいタメ口でいいぞー? そうじゃないとお前の手下にも示しがつかねーだろ?」
こう言うところは流石は大王って感じだよな、上に立つ者としての自覚が俺なんかよりも数倍ある。そもそも歴が違うからな。俺はどちらかというと、いや、今は関係ないか。
「デト! 【人魔一体】、【変身】」
俺は応急処置としての変装を行なった。それとこれは最近の出来事なんだが、デトが擬態を使い過ぎて変身にまで進化してしまったようだ。そのおかげでかなり楽に獄界っぽい人に変装できた。
「じゃ、じゃあ行くか」
そう言って閻魔の方を向くと、
「な、何それカッケーじゃねーか! 俺もやりてぇ!!」
あ、これ長い奴だ。俺はそう直感的に理解してしまった。いや、させられてしまった。
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