第785話 凸りました


「えーこの度はクランのリーダーに就任することとなりました。自分でもよく分かっていないのですが、頑張りますので応援して頂ければと思います」


 えーっと、どうしてこうなったんだ? 気づいたら俺はクランメンバーの前で演説のようなものを行なっているのだが、もう後戻りはできないのか? セーブリセットできるのがゲームの醍醐味じゃなかったか?


 だが、無常にも多くの目がこちらを向いてしまっている状態だ。後戻りもリセットもさせてもらえないみたいだ。ならば、少しでも俺の自由度を確保し、責任転嫁できるようにしておかなければ……


「えーっと、つきましては、自分も四六時中このクラン活動に参加できるわけではありませんので、副リーダーを選出したいと思います。一人は歯垢帝さん、もう一人は……そうですね山田太郎さんにお願いしたいと思います。では、これで私は少し用事がありますので失礼させていただきます」


 そう言って俺はその場から退室、というか隠遁を発動してダッシュで城の上まで向かった。大至急やらなければならないことが発生したのだ。


「【死骸魔術】、召喚!」


 俺はヴァールを呼び出した。そう、今から獄界に行こうと思う。その理由は、装備に関してだ。


 今回の件で俺は意外と人目に晒されているということが分かったし、俺個人がどのような人物なのかクランのメンバーにはバレたと思う。


 別にそれはそこまで大事ではないのだが、もしこのまま放置しておくと俺が魔王だということに感づく輩が現れるかもしれない。それを防ぐために魔王のコスチューム、もとい装備を新調しにいくのだ。


 恐らく獄界で作って仕舞えば、いかにも魔王っぽい装備が作れると思うし、プレイヤーたちが見慣れない装備が作れるのではないだろうか?


「あら、お久しぶりでございます、魔王様。閻魔様が大変会いたがっておられましたよ? それでは本日はどのような御用で?」


「ああ、少し獄界に用ができてな。送ってもらえないだろうか?」


「そういうことでございましたか、閻魔様もさぞ御喜びになられることかと思います。では早速まいりましょう」


 うむ、ヴァールは相変わらず優秀だな。話も分かってくれるし本当に助かる。


 そうして俺は二度目の獄界へと赴くことになった。


 ブゥウン


「魔王様、大丈夫でございますか? では、先に閻魔様へと挨拶に向かいましょう。前回みたいになるのはさけなければなりませんからね」


 確かにな。前回は俺が勝手に入って閻魔様から刺客が向けられたんだっけ? まあ、返り討ちにはできたけどできることなら穏便に済ませたいからな。


「では、こちらになります」


 そう言われて、ギイっと門が現れるとそこにはウチの城のような謁見の間があった。しかし、ウチのよりももっと禍々しく血みどろな感じだった。まあ、赤いからそう見えるだけかもだが。


「おぉー! 久しいな我が友よ! 元気にしておったか?」


 玉座に座っている姿はまさに閻魔大王、と言った感じでものすごく貫禄が出ている。


「お久しぶりです閻魔様、調子はどうでございますか?」


「おいおいおい、友達だろ? そんな水くせー挨拶なんてしてないで拳で語り合おうぜ、拳で!」


 ……え? 拳で?


「友達には挨拶なんて必要ねーよな! 殴り合えばお互いの言いたいことなんかすぐ分かるさ。じゃ、いくぞ!」


 閻魔様の影が揺らめいた。そして、瞬時に俺の背後に周り、特大パンチを食らわせようとしてきた。流石にこれはまともには受けられない。俺は、しゃがんで避ける。そして、そのまま足を救うようにした下蹴りをお見舞いするが、大木かと思うくらいびくともしない。


「おいおい今のが全力だとは言わねーよな? おら、まだまだギア上げてくぞ!」


 え、こんな暑苦しい人だっけ閻魔様って。それに、殴り合えば分かるとか言ってたけど、俺の言いたいこと何も分かってねーじゃん。

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