第783話 スライス


 俺は三馬鹿と戦った後は必然的に戦う流れになり、戦う以上魔王城の敷地内では負けられないため、勝利を積み重ねていった。そして、勝利を重ねていくと、いつの間にか最後の試合まで来てしまっていたようだ。


 ……え? ちょっと、いや、かなり弱くないか? このクラン、精鋭部隊の集まりだと思っていたんだが、こんなに弱かったのか?


 滅茶苦茶ビクビクしていた俺は何だったんだ? このクランは別に精鋭部隊でも何でもない、ただの穴掘り集団なのか?


 い、いや、まだそう結論づけるのは早い。ここは一応魔王城だ。だから俺に何らかの良い作用が働いているかもしれない。だから、たまたま勝てただけで、外で襲われたりしたらひとたまりもなくやられてしまう可能性がある。


 だから、ここはこのまま何事もなく戦うしかない。そして、このクランの戦闘のリーダーになることで、不安要素を自分で管理することができる。つまり、ここはなんとしてでも勝たねばならない。


「最後の試合を始めてもらうか」


 いつの間にか行司ポジについた歯垢帝がそういった。因みに歯垢帝は一回戦で、歯垢帝に噛み付いてた人も二回戦くらいで負けていた。今思うと彼はなんで突っかかったんだろうな。そんなに勝てる自信があったのだろうか?


「薄水です。よろしくお願いします」


 お相手さんからそう自己紹介された。目が薄く、顔も薄く、身体も薄いので、完全に名を体で表している。


「ら、ライトって言います。よろしくお願いします」


「では、儂が合図をさせてもらうぞ。用意……始めっ!」


 歯垢帝がそういった瞬間、敵のさんが魔法を詠唱し始めた。てっきり極薄のナイフとか使ってくるかと思ってたから予想外だな。


「【水魔法】、ウォーターバレット!」


 ん、水魔法か。ますます意外だな。だけど、対人戦において魔法やスキルを口に出すのはよろしくないな。何故かって? だって、こういう風にくる攻撃の性質が分かっていれば対処できてしまうからな。


「【水操作】」


 俺は飛んで来た水の弾丸を手に触れる寸前で操作し、完全に手中に納めた。


 水操作は、自分の体から何センチか離れていても操作できるのだ。つまり、水魔法を使う相手には負ける道理がないのだ。


「な、何っ!?」


 ふふふっ、薄いさんもちゃんと驚いてくれたみたいだ。でもなんかいいな、対人戦も。こうやって相手の反応が見れて、駆け引きがあって、お互いに高めあえる。対モンスターでは絶対に獲得し得ない経験だ。


「そ、それなら! 【水魔法】、ウォータージェイル!」


 ッザバァ!


 突如現れた大量の水が俺を取り囲み、俺は水の牢獄へと閉じ込められてしまった。そして、その水は俺から酸素供給を遮断してこようとする。


 ま、できないんだけどな。ってか水中適応あるから仮に水中の中に入れられても大丈夫なのか。うん、なんか申し訳なくなってきたな。とことん相性の悪い相手で。


 俺は水の牢獄から、海を割るかのように出てきた。


 そして、俺を閉じ込めていた水を再利用して、水魔法の真似事をしてみる。


「うぉーたー、そーど?」


 水でできた巨大な大剣をガチガチに密度を高めて、薄いさんの頭上から一気に振り下ろした。


 あ、薄いさんがもっと薄くなっちゃったよ。

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