第780話 天涯孤独からの脱出


「え、子供?」


 始皇帝と呼ばれていたその人物はまさかの子供だった。


 い、いや、まだキャラクリエイトで子供のような姿にしているだけの可能性もあるからな。決めつけはよくないよな、うん。


「あ、そうなんです。子供なんです、意外でしたよねー。掲示板であんな態度取ってたらそりゃ勘違いするのも無理はないっていうか……まあ、気にしないでください!」


 あ、俺声に出てたのか。って、そうじゃなくて、え? 今は子供ってことを認めた? しかも掲示板であんな態度取ってたってどういうことだ? あんなってどんなだ? こんなに人畜無害そうな見た目でそんなにヤバいことしてたのか?


「そんなことよりもまずは自己紹介ですね。私の名前は歯垢帝トゥースです。歯の垢に帝で歯垢帝ってかきます! って言ってももう知ってるか」


 え、え、え、え? 歯垢帝、トゥース? 貴方は始皇帝じゃなかったんですか? 歯の垢に帝って相当ヤバいだろう。うん、かなりヤバい。え、どうやったらそんな名前にしようって思うんだ?


「あ、えーっと私はライトって言います。初心者ですよろしくお願いします」


 ここでも変わらず初心者ムーブを貫く。何かあっても初心者なので、で全部許してもらうつもりだ。頼むからここは素人に優しいクランであってくれ。


 でも、俺がそういった瞬間、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、歯垢帝の雰囲気が変わった気がした。もしかして素人が嫌いなのだろうか? 戦力としては活躍できると思いますのでどうか、見逃してください……


 俺の心の願いが通じたのか、すぐにピリついた雰囲気が収まり先ほどの空気に戻った。


「初心者なんですね! 初心者の割には強そうな見た目をしてらっしゃるのでびっくりしました。その装備はご友人か誰からいただいたものなんですか?」


 なるほど、そういうことか。確かに、今は初心者変装をしていないから怪しさ満点だわな。


「はい、友人というかツレというかその方と協力して作ったんですよ」


 ツレ=従魔ってことにすれば問題ないだろう。


「なるほど、そういうことだったんですね! では、今からクラン申請を送るので承認してください」


 その言葉の数コンマ後に申請が送られてきた。おー、クランにはこうやって加入するのだな。初クラン参加だ。まさか、俺にソロじゃない日が来るとは思っていなかったぞ。天涯孤独から抜け出せたようで、嬉しい限りだ。


 あ、そうだ。この場所についても軽く聞いておこう。一応俺の家の地下だからな。知っておかなければいけない。


「この場所はなんの目的で作られてたんですかね?」


「ん、あれその時の掲示板見てませんでした? この場所は最初はタダのノリだったんですよ。でもなんかクランメンバーがやる気になっちゃって、それで気づいたらこの場所が生まれたってわけです」


 は? ノリ? 生まれた? ってことはタダのノリで人の家の地下にスペースを作ったってことか? おいおいおい、そんな傍迷惑なことあるかよ。その家主にはちゃんと許可取ってんだろうな? このご時世ちゃんとアポ取らないと厳しいぞ?


「そして、たまたま魔王城の第一階層の改装イベントとバッティングしてしまって、美味しく経験値をいただいてる、ってい感じです。もし、魔王様にあったらちゃんとお礼をしたいですねー」


 おい、よかったな今目の前にいるぞ?


 ということでちゃんと感謝してくれ。大丈夫殺したりしないから、ちゃんと感謝の気持ちをもらった上でこの拠点を壊すだけだから。


 ……流石にしないぞ? だって、クランって最高で五十人なんだろ? で最後の一人が俺ってことだろう? なら俺が今反乱したら四十九対一になる。流石に勝ち目は薄いし被害も大きくなるだろう。


 それにどこかの魔王のせいでここのクランの人達は急激に強くなってるらしいからな。今は待ちの一手しかない。

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