第779話 最後の1ピース


 そもそも、なんでこんな所に集落があるんだ? 時空が歪んだって可能性もなきにしもあらずだが、冷静に考えるとその可能性は結構低いと思うんだが。


 そして、俺はもう一つの仮説を用意した。それは、この集落は運営がプレイヤーによる魔王城攻略を助けるために配置したのではないか、と言うものだ。


 これを閃いた時は自分のことが天才だと感じてしまった。


 確かイベントでは取得経験値が二倍になって、かなり初心者からある程度のレベルの人には美味しいイベントのはずだ。しかし、それで一回死んで仕舞えばまたここにこないといけなくなるし、単純にデスペナルティもうざいだろう。


 だからこそ、これを設置することで、死にそうになった時はここで回復し、仮に死んだとしてもまた第一層真下のここから復活できる。プレイヤーからしたら最高の環境じゃないか。


 でも、そうであるなら、せめて一言言って欲しかったな、運営さんよ。だって俺の家だぜ? その地下にプレイヤーの溜まり場作るって結構ヤバいことしてんだろ。


 例えば、現実世界で言ったら自分の家の下に大嫌いなGの巣を勝手に作られる、みたいな話だぞ? なかなか死なないし、殺しても殺しても湧いて出てくるし、ってかプレイヤーとG完全一致じゃねーか。


 まあまあ、文句ばっか言っても仕方ねーよな。それよりも折角この施設があるなら、それを上手く有効活用できるように考えた方が自分のためーー


「お、新入りさん? こんにちは、君は誰からの紹介? それとも掲示板で見てきた人かな?」


「あ、あ、えーっと掲示板で見てきました」


 流石にここで嘘をついて友達からの紹介っていう度胸はなかった。俺が知ってる名前はさっき出会ったロイド君だけだし、それもNPCとか紹介できる立場にない人だった瞬間俺の立場は死ぬ。


 それなら同じ嘘でも露見が少ない方を選ぶべきだよな。って、掲示板ってなな? ゲーム内にそんなものがあるのか?


「おーそっか! ならギリギリだったね! ちょうど君が最後の一人だったんだよね! クラン五十人まででそんなにいないと思ってたら思ったよりも多くてね……僕は山田太郎、このクランの事務的なことをしているよ、連絡事項を全体に拡散したりもしてるからよろしく! あ、定員に達したってこと伝えなきゃ」


「あっ、はい。よろしくお願いします」


 え、ここってそのクランが仕切ってるものだったりするのか? ん、もしかしてここを最初に見つけたのが山田太郎さんが所属しているクランで、それを独占しているって感じなのかな?


 だから、この発展具合も元からじゃなくてこのクランによるものかもしれないな。だが、俺も最後の最後ギリギリで入れたのはかなり運が良かったな。ん、それにしてもクランってどうやって入るんだ? なんか商人みたいなのなくていいのか?


「あ、あのークランって具体的にどうやって入ればいいんでしたっけ? 初心者なもんであまりわからなくて……」


 これが必殺初心者戦法だ。おいおいまた嘘かよと思うだろうが、そうではない。実際に俺は初心者であるのは間違いない。なぜならクランの入り方も知らないのだからな。ただ、初心者の中で少し強いという適度なのだ。だから気にするな。


「あ、そうだったんだ! えーっとね、僕はその権限を持ってないんだよね。だから、歯垢帝のところに行かなきゃなんだけど……あ、いた! あれが歯垢帝だよ! 一応クランリーダーだから挨拶すれば入れてもらえるよ!」


 し、始皇帝!?


 まさか俺が誰かの下につくなんてことになるとは微塵も思っていなかったが、始皇帝の下なら安心だろう。あらゆる改革を押し進め古代中国から今まで名を馳せた超有名人物だ。しかも、そのお墓は無茶でかい。これは大船に乗った気分だな。


 俺は始皇帝と呼ばれる人のところに向かった。まだ後ろを向いてて顔は見えてない。さぞかし威厳の溢れるお方なのだろう。


「すみません、本日漬けでこのクランに所属することになりました、ライトと申します。これから全力で頑張りますのでどうぞよろしくお願いします!」


「ん、ライト!?」


 え、この人俺のことを知っているのか? って、え、子供!?


 こちらを振り向いて俺のプレイヤー名を口にした始皇帝様は、なんと子供であった。


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