第778話 大きな選択
水溜りの中に入ると、ひっそりと魔王城第一層に隠された入り口からは想像もつかないような世界がそこにはあった。
そして、案外水中部分のエリアは狭かった。そして、なんと驚くべきことに水が扉で区切られていたのだ。もちろん、開けて見たのだが水が漏れ出ることはなく、まるで水が自立性を持っているかのようにその場所に鎮座していた。
俺は短いダイビングを終え、陸地に降り立つと懐かしい光景を思い出した。そういえば海底神殿もこんな感じだったなと。俺の冒険はあそこから始まったと思うと、懐かしい気分だ。
それに、今思うと湖から入っていったのに、海底っておかしくないか? 湖底神殿だろ、とも思うのだが、海にも繋がっているのだろうか?
そんな取り留めのないことを考えていると、何かの影が見えた。
そうだ。ノスタルジックに海底神殿のことを思い出しているとこじゃない。なんせ海底神殿にはリヴァイアサンがいたように、こちらにも必ず強大な敵がいるはずだ。
更に、ここはなんと言っても魔王城の地下だ。始まりの街から行ける隠しダンジョンと難易度が同程度とは決して思わない。もう少し気を張るべきだったな。
俺は瞬時に戦闘態勢を取った。そして、徐々に徐々に迫り来る敵にいつでも襲い掛かれるようにしていたんだが……
「え、人、間……?」
曲がり角を曲がって現れたのはまさかの人間だった。え、なんで? ん、俺よりも先にこの場所を見つけたのか? いや、それにしては反応が落ち着きすぎているというか、違和感が拭えない反応だった。
俺を見ても特に攻撃、いやもはや警戒すらすることなく、通り過ぎっていった。
もしかして、NPCか? 元々はここに住んでいたんだが、何かの拍子に時空が歪んで魔王城の地下と融合しちゃった、みたいな?
それなら何か有益な情報を彼らから獲得できるかもしれない。ならば、もっと探索してみよう。まだまだ、俺はここにきたばっかりだからな。
そう考えて、俺は奥へ奥へと進んでいった。
外敵対策なのか、予想以上にクネクネとした道のりは俺の方向感覚を狂わせてきたが、それでも何とか進んだ。そしてようやく開けた場所に出た。そしてそこには……
「な、なんじゃこりゃ!!」
そこには、集落が完成しつつあった。何かを作業している職人さん、皆を鍛えている指揮官的な剣士、挙句、何やら化学的なことをしている研究職のような方さえいる。
まさかこれほどの規模とは思っていなかった。いや、人数でいうとそこまで大したことではないんだが、この場所の充実度が凄い。皆、ここから出られないはずなのによくここまで文明を発展させられたなぁと思う。
凄い、素直に凄い。尊敬に値する。
「うぉっ、見ねー顔だな」
不味い、俺は後ろから声を掛けられた瞬間、そう思った。一思いにやってしまおうかとも思ったがまだ、声的にはまだ大丈夫そうだ。相手が不信に思ったら即座に、、やる。
俺は振り返って笑顔でいう。多分引きつっているだろうが。
「こ、こんにちは!」
「おうおう、元気がいいな。名前はなんていうんだ?」
ここで大きな選択を迫られるということか……ここで魔王なんかと答えたらシンプルにこの集落にいさせてもらえなくなる。自分の名前をまさかこんなところで使うなどとは思っていなかったが、ここでは一プレイヤー、タダの人間として振る舞おう。
「ら、ライトっていいます」
「おお、そうかいい名前だな! 俺はロイド、ライトともなんか名前似てんな。ま、とりあえずよろしくな」
これが俺のこの集落初の人とのコミュニケーションだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます