第767話 時が満ちたが、潮は引いた


 今日は待ちに待った魔王城突貫の日だ。


 俺たちはこの日の為にできる限りの用意をした。第一階層から水中エリアという鬼畜なダンジョンに小さな穴を掘るためだけに水中ポーションから、ツルハシまでできる限りの努力をした。それも皆が一丸となって、だ。


 その努力の成果を今日は発揮するのだ。魔王からすればただの羽虫も同然だろう、だが、そんな虫ケラだけでもできるところはあるってところを見せつけるんだ。


「おう、黒歴史、調子はどうだ? ポーションは足りてるか?」


「あぁ、ピサロ、いい感じだよ。正確な数は王水に聞かないと分からないけど少なくとも三百個は用意してあるはずだ。ガラス瓶はもっと納品したから、もしかしたらもっとあるかもしれない」


「おー! それは良いな。そんだけありゃ足りなくなるなてことはないな、もうすぐ出発らしいから準備しとけよ? お前も掘るんだろ?」


「あぁ、もちろんさ。流石に見てるだけなんてつまらないことはしないよ」


「ははっ、それもそうか。じゃあまた後で」


 今のはピサロだ。クランでも結構みんなをまとめてくれる良い人だ。最初顔合わせをした時は皆初対面でビクビクしてたけど、それを取り仕切ってくれた人だ。


 リーダーではないけど、実質的なリーダー見たいな感じでもある。まあ、お母さんポジだな。リーダーは……言わなくても分かるか。


「あっ、王子! どうそっちは良い感じ?」


「あぁ、結構仕上がってるぞ。城に入ってから皆が掘る間、俺たちが全力で守るから安心してくれ」


 この人は田中王子、みんなから王子って呼ばれてる。そして、今回の作戦の肝となる護衛部隊の隊長だ。田中王子は結構強いらしい。


 それに、顔が無茶苦茶カッコいい。キャラクリに何時間もかけたそうで、皆王子って呼ぶことに抵抗がない、むしろ王子って呼ぶべきだと感じたくらいだ。


 本人はリアルがブスだから、と言ってるけど、言動からして絶対にイケメンだと思うんだよなー。


 ま、そんな感じで最終確認が進められ、いよいよ出発の時間になった。


 ❇︎


「今から、魔王城地下を制圧する。部隊は掘削班、護衛班に別れ迅速な作業を行う。また、掘削完了後は地下に開発班を残し、速やかに撤退する。なお、ポーション類は大量に用意しており、皆に配布した分を除いてもかなりの数を班長に持たせてある。回復、水中呼吸は常に怠りなく行うこと。では、行こう。何者でもない我らの力を示すのだっ!」


「「「ウォーーーーーー!!!」」」


 指揮は最高潮に達した。皆、やる気がマックスでもう誰にも止められない。俺たちはどこまででも突き進むんだ!


 ギィいいいいい


 だけど、城に入った時に問題が起きた。


 まさかの水がなかったのだ。そして、敵もスケルトンやクモなどの雑魚敵ばかりだった。


「歯垢帝、どうしましょう!」


 クランメンバーの一人が叫んだ。


「臆するな! ダンジョンの構成が変わるなどよくあることだろう! 皆持ち場について己の仕事を全うしろ!」


 その一言で皆が我に帰った。そして陣形が組まれてからはあっという間だった。敵が弱い為護衛班は余裕で守ることができ、掘削班も作業に徹することができた。そして、縦横四メートル、高さ二メートルくらい掘り終わると、中に開発班と掘削班数名を残し、フンコロガシは退散した。


 それはものの数十分の出来事だった。


 そして、その日の夜、運営から正式に魔王城の仕様変更に関するアナウンスがあり、初心者から上級者までの経験値稼ぎ場として周知されたのであった。





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注)皆、炭鉱夫というスキルもちです

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