第757話 怒りのその先


ーーー称号《怒り狂う者》を獲得しました。



 はっ、俺は天の声で意識を取り戻した。どうやら俺は怒りに我を忘れてしまっていたようだ。まさかこれほどまでに自分が荒れてしまうなど思いもよらなかった。


 しかも、称号を獲得したってことは公式に運営から、お前怒りすぎだろって言われてるようなもんだろ? もう少し冷静になろう。


 俺が暴走している間はなんとかサブ俺が制御してくれてたみたいだな、これには感謝しかない。


 そして現状を確認すると……無駄に肥大化した俺と敵、一体何があったのだろうか? あ、それと称号獲得によってスキルをゲットしてるみたいだな、どれどれ?


【憤怒】‥STR、AGIを十倍にし、その他のステータスをマイナスにする。また、怒りによって自我を忘れ標的を倒すまで暴れ散らかす。また、このスキル使用時、同系統スキルの効果を上昇させる。


 お、おう。なんともぶっ壊れスキルだな、あまりにも性能がピーキーすぎるぞ。流石に憤怒というだけのことはあるな。あと、最後の一文はどういうことなのだろうか? 憤怒と同系統のスキルなんてあったか?


 ん、そういえば俺はこれに似たようなスキルを持ってなかったか? どうせなら使ってみるか。


「クハハハハ! 私の真の姿に恐れ慄き言葉も出ぬか! ではそのまま逝くが良い。せいぜい、冥府で私に楯突いたことを後悔するのだな!」


「【憤怒】、【怒髪衝天】」


 あ、これヤバい。絶対にヤバいやつだ。もうここまで来ると怒りがもはや何なのかすら分からなくなってきた。恐らく怒髪衝天も憤怒によって強化されてるし、二つとも我を忘れる系だから物凄くヤバい。


 ヤバすぎてヤバいしか言葉が出てこない。なんか、脳に直接何かを浴びせられているような感じだ。絶対にダメな感じがするのだが、案外悪くないとも思えるような、そんな感覚。


 脳が蕩ける様な、それでいて羊水の中で浮かんでいる様でもあり、体を何かが突き動かそうとする。


 その衝動に俺は逆らうことが出来ずに……


 グシャ


 目の前にあった生命体を壊してしまった。


「あ、あれ?」


 夢から醒めたみたいに意識が元に戻った。手には血塗れの心臓が二つあった。なんで二つも心臓があるんだ? コイツって心臓が二つもあったのか? だとしたら敵の余裕な感じも納得がいく。というか汚いやり口だなおい。


「って、ハーゲン!」


 俺は全速力でハーゲンの元に駆け寄った。怒りで本来の目的を忘れたらいよいよ意味ないじゃねーか。怒る為に怒ってたらそれこそそこらのけだものや悪魔と同じになってしまう。


 そこには、首を半分以上もがれて大量の血を流したハーゲンの姿があった。


「【死骸魔術】、蘇生!」


 俺は兎にも角にも蘇生を試した。NPCを回復させたことがあるんだからハーゲンも蘇らせてくれるはずだ。


「死体損傷率が高いため、実行できません」


 くそっ、なら!


「【慈愛之雨】、【死骸魔術】、蘇生!」


「死体損傷率が高いため、実行できません」


 くそっ、くそっ! なんでだよ、なんでだよ! なんでだよなんでだよなんでだよ!


 どうしてハーゲンは戻ってこないんだ、どうして、どうして……


 気づけば俺の頬には一筋の涙が伝っていた。


 ポツン、


 それがハーゲンの亡骸に落ちた時、


「アイテム:ハーゲンの心臓、を獲得しました」


 天の声さんがそんなアナウンスをしてくれた。






—————————————————

ハーゲンの涙を心臓に変更いたしました。

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