第748話 ご主人様の采配


 その時聞こえてきたのはまさかのゾムの声だった。


 そっか、ゾム君もいるんだった。なんで僕たちだけで戦おうとしてたんだろ。ご主人様がこの組み合わせにしたってことは絶対に必要な場面が来るってことだったんだよ!


『スカル、もう分かってるよね?』
『あぁ、そっちこそタイミング合わせてよね?』


 どうせ同時に対応されるならわざわざ的を増やしてあげる必要もないから、一つに合体する。そして、タイミングを見計らって、


『『ここだっ!』』


 僕たちは敵に殴ろうとした瞬間にゾムと位置を入れ替えた。


 相手は、殴りかかってきている僕たちに向かって当然反撃をしようとするわけで。


 グチュ


 ゾム君の体にクリーンヒットしてしまった。だけど、ゾム君の体に物理攻撃、特に打撃なんて効くハズもない。


「なっ、なんだよこれは! おい、お前らどういうことだよ! あぁん!? いいからこれを外せ!」


 敵の悪魔さんは自分の状況が飲み込めず、未知のゾムに対して慌てふためいている。案外小心者なんだね。


 ゾム君はスライムの体をしたゾンビ、いやゾンビの性質をもったスライム、ん? ゾンビっぽいスライム? スライムっぽいゾンビ? ちょっと頭がごちゃごちゃになりそうだけど、とにかくその二つの性質を持つ特殊な生き物なんだ。


 さすがはご主人様だよね、ゾンビ由来のある種の不死性と腐敗性をスライムと掛け合わせることで物理攻撃に強くし、スライムの酸とも相まって攻撃力も担保できてる。


 ブチャッ


 ほら、今も粘性の体で相手の腕を包み込んで、溶かして腐らせて絞るように潰すことで、最も簡単に敵の腕をちぎってしまった。僕たちじゃまるでダメージを与えられなかったのに。


「うぎゃあああ! ど、どどどどうなってんだよ!」


 そしてちぎった腕は自分で食べるから非常にエコだ。環境も綺麗にしてくれる。ただ、相手からすれば恐怖だろうなー。未知の生物が自分の腕を食べてしまってるんだから。


 お相手さんはどうにか引き剥がそうとするけどゾンビスライムを引き剥がすことは容易じゃない。ゾンビの生命に対する反応とスライムの体がかけ合わさってはほぼ不可能と思った方が良い。そしてもがけばもがくほど……


 ブチ、グチャッ、


 ゾム君の餌食になってしまう。


『ねーねーボーン、僕たち要らなかったかな?』
『うーん、まあ結果的にいい感じになったから必要だったってことじゃない?』


『それかご主人様が僕たちにもっと火力を鍛えろって言いたかったのかもしれないね』
『うん、きっとそうだよ! だって、ゾム君にも負けてしまうようじゃ先輩の面目がないもんね!』


 やっぱりご主人様の采配に無駄なんてミスなんてないんだ。これからはもっともっと火力を身につけてご主人様の役に立てるように頑張らなくちゃ!


 ちょうどその頃、ゾム君が敵の全身を食べ終えた所だった。


 あ、そういえば心臓取らなくてよかったのかな? ゾム君骨まで綺麗に食べちゃったんだけど……

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