第743話 蜘蛛と亀


「お、ついに始まった」


 俺は扉の外からアスカトルの配下の視界を通して二人の様子を見守っている。


 二人は敵と対峙して何か会話をしているようにも見えたが、二人って言葉を発することってできたっけ?


 まあそんなことはどうでもよくて、開戦の狼煙をアスカトルが上げた。


 配下である小さな蜘蛛を無数に召喚し、蜘蛛の糸によって相手の動きを封じる攻撃のようだ。この技のポイントとして、糸を出しているのが子蜘蛛であるから、糸が細くて見づらく、体に絡まりやすいというものがある。


 急に体の制御が効かなくなり、どうにか拘束を解こうとすればするほど絡まっていく、まさに蜘蛛の巣のような攻撃だ。


 これを初見で食らったら、殆どの敵があっという間にアスカトルに生死を握られることとなるだろう。


 しかし、流石は悪魔といったところだろうか。


 ッドーーン!


 自らの周囲に衝撃波を生み出すことで、自分を拘束している糸を、子蜘蛛もろとも破壊してしまったのだ。


 これには流石のアスカトルも面食らったのか、少し硬直している。その隙を狙って悪魔が襲いかかってくるが、デトの毒噴射のおかげでことなきを得た。


 うん、二人一組でちょうど良かったみたいだな。一人だと本当の死闘になってたかもだから、苦戦するくらいが丁度いい。


 だが、その後は防戦的な戦いが続いた。悪魔が爪を伸ばして、斬撃による攻撃を繰り広げてきたのだが、その攻撃がアスカトルをもってしても素早く、アスカは避けるのに、デトは殻に籠るのに必死だった。


 避けても避けても、次から次へと攻撃がやってきて、こちらが反撃する機会も無いようだった。


 そして遂に、


 グサッ


 アスカトルの体にその爪が突き刺さってしまった。


「あ、アスカトル!」


 俺が思わず二人のいる部屋に入ろうとした時、アスカトルの体が溶けるように崩れ落ちてしまった。


「あ、アスカトル……」


 くそ、間に合わなかった、早く蘇生しなければ、そう思った時だった。何故かアスカトルがデトの隣に立っていた。


「え、?」


 そして再び戦いの始めに撃った子蜘蛛による攻撃を行った。しかし、それも最初の時と同じく悪魔の攻撃に相殺されてしまった。


 だが、ここからが最初と異なる点だった。


 まず、アスカトルはデトを悪魔に向かって放り投げた。まさかデトをそんな風に使うとは思わなかったが、確かにこれならデトの機動力の無さをカバーできる。


 しかし、そんな攻撃が当たるわけもなく易々と躱されてしまう。だが、それで終わりではなかった。


 なんと、アスカトルはデトに糸を巻きつけており、デトがまだ地面に着地する前に、ヨーヨーのように引き戻し、デトを悪魔に当てた。


 まさかそんなことをされるとおもっていなかったのか、悪魔にグリーンヒットした。したのだが、そんな攻撃が効くわけも、


「え!?」


 なんと、デトがぶつけられた後に悪魔が崩れ落ちてしまったのだ。


 そしてそこからはあっという間だった。デトが噛みつき、アスカトルが刺し、悪魔は絶命した。


 え、何が起こったの?


 訳が分からぬまま悪魔と従魔の戦い第一回戦は我ら魔王軍の勝利に終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る