第740話 メイドのミヤゲ
「うぅ……な、なんなんだお前は。くっ、私の力が通用しないとは……」
あれ、まだ生きてたのかよ。とっくに死んでると思ったんだけど。悪魔の生命力ってやっぱすげーな。ゴキブリ並みってこういうことを言うのだろうな。
いや、待てよ。もしかしたら俺らの火力が足りてないだけなのかもしれないな。このダンジョンのレベルが高くて俺らの攻撃が通用してないってことなのかもしれない。うん、ここを出たらもっとみんなの攻撃力を上げないとな。
そう考えるといつもどこかへ言っては強くならなきゃって思って帰ってきてる気がするんだが。まあ、ゲームってそういうもんだよな、うん。
「わ、私は個にして全であり、全にして個である完成された存在だ。それなのに、それなのにお前らはこうも易々と私を倒した。どうだ、冥土の土産と思ってどうやったのか教えてくれないか?」
ん、なんかコミュニケーションを図ってきたぞ? しかも、そこらへんに落ちてる蝙蝠全てから同じ声が聞こえるからとても気持ちが悪い。それにしても冥土の土産に教えてくれ、ってなんか怪しいな。
もしかしたら、その仕組みがわかれば同じ技が使えるとか、復活できるとかそういう能力を持っているのかもしれない。ここは無視して先に進むか、ささっとトドメを刺すかの二択だな。
数が多いから全員にトドメを刺すのは面倒臭いが、倒した判定になってなくて先に進めないとかだったら嫌だからみんなで殺して回るか。
俺が無言で近づき、脇差で蝙蝠の頭を潰そうとした時、
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 冥土の土産に教えてくれても良いだろう!? それにもう勝負は着いてるんだ、んなトドメを刺さなくたってお前なんか襲わねーよ! だから、見逃してくれ!!」
俺は剣を止めた。そして考えた。確かに殺す必要はないかもしれない。わざわざこちらの手の内を教える必要もないが、別にトドメを刺す必要性もないのだ。
だが、敵は悪魔。悪魔の言うことを一から十まで全て信じるのは危険だ。むしろ全て嘘であると疑った方がいいんじゃないだろうか?
仮にコイツの発言が嘘であるとするならば、どうやってやったのか教えて欲しいって言うのは別に興味がなくて、易々と倒したってのも本当は倒してなくて、お前なんかを襲わねーよってのも襲うってことだ。
あ、確かにお前なんか襲わねーよ、と発言しているが、本来ならその状態で襲えるわけがないのだ。なのにそういう発言をするってことはまだコイツは倒されてなくて襲う気満々ってことだ。
ってことは、うん、やろう。俺は寸止めしていた剣をもう一度振りかぶり、、
「ケッ、その顔はもうバレたみたいだな。だが、もう遅い、準備は整った。増援の到着だ」
バサバサバサバサッ!
エントランス中に何かが羽ばたく音が響き渡った。くそ、今までの一連の流れは全部タダの時間稼ぎだったってわけか。無駄に色々深く考えすぎたみたいだ。
「お前らは気づいていると思うが、俺は個にして全、全にして個である。つまり俺は蝙蝠に分裂することができるのだ」
俺が殺そうとしていた蝙蝠が、そこら中に落ちていた蝙蝠が消え、一人の悪魔が出現してこういった。
「そして私は、私以外の蝙蝠とも一体となることができるのだ。そう、これが私の真の姿だっ!」
エントランスにやってきたのは、もちろん蝙蝠で、無数にいる蝙蝠たちは悪魔に向かって集結し、そしてどんどんと取り込まれていった。
その悪魔は蝙蝠を吸収するにつれてどんどんと体大きくなり、その胃から放つオーラも圧縮され強大なものとなっていった。
「フハハハハ! この姿になった私の前にもはやお前たちはなす術など一つもない! 冥土の土産に教えてやろう、私は完成された悪魔なのだ!」
んー相手が蝙蝠を取り込むのならば俺も自分の身体にドラゴンでも宿しますか。
「【龍宿】、冥土の土産に教えてやろう。完成された存在なんてこの世には存在しないということを」
ベギッ
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