第738話 不掴


 ギィイイイイ


 ようやく、ようやく城の中に入れるみたいだな。入る前からあのボリュームは凄いな。圧倒的過去一のダンジョンじゃないか? でも、やりがいがあるっていうのは良いよな。久しぶりに血が滾るぜ。


 それに、悪魔がわんさかいてくれるから、心臓もウハウハだ。帰ってからのお土産も用意してくれてるなんて最高すぎるダンジョンじゃないか?


 城の中に入ると、そこは薄暗い空間が広がっていた。


 視界に関しては闇眼があるから大丈夫なのだが、どうも敵意を感じ取るセンサーが鈍っている気がする。四方八方から敵意を感じているような気もすれば、全く誰もいないような気もする。


 城の中に入ったくらいで油断はできないってことだな。


『ペレ、灯りを頼む。海馬は一旦休め、この場所はお前とは相性が悪いからな。大丈夫、お前はよく活躍してくれた』


『『はっ』』


 うん、二人ともこの場の危険性を理解しているからか、返事も短く瞬時に行動に移した。海馬はもっと役に立ちたそうな顔をしてたが、褒めてあげると少し嬉しそうな顔をしてたな。


 だが、先ほどいったように、ここは機動力が大事になってくる。相手がいつどこから襲ってくるか分からないからな。海馬は固定砲台という表現がピッタリな気がする、つまりは適材適所ってことだな。


『ご主人様』


『あぁ、分かっている』


 ペレが念話で俺に伝えてきた。だが、俺もしっかり分かっている、俺らの後ろに敵がいるということを。雑多な敵意に混じっているから誤魔化せているつもりだろうが、甘いな。バレバレだ。


 だが、どのタイミングで仕掛けるかを迷っている。相手は俺らの一挙手一投足が見えているのに対して、俺らは敵の姿すら見えていないわけだからな。迂闊は動けない。


『ペレ、俺がカウントするから合図を出したタイミングで周りにお前のできる限り最大の火力で火を放て、わかったな?』


『はっ』


『じゃあ行くぞ、3、2、1、今だっ!」


 全方位に攻撃すれば相手は避けざるを得ないからな。さらに、炎の広範囲攻撃はこの薄暗い環境は明るく見通しの良いものに変えてくれるのだ。


 そして俺はペレが技を放った瞬間に剣を抜き、後ろを振り向いた。


 だが、そこには何も、誰も、いなかった。


「あれ?」


「フハハハハ、炎による全体攻撃で視界を確保しつつ敵の攻撃に備え、その内にもう片方が戦闘準備を整える。悪くない作戦だな、私の前以外で、だがな」


 その声はどこからともなく聞こえた。この城のエントランス全体に響き渡るような、それでいて直接脳に語りかけられているような、そんな変な感覚だ。


 敵意の時といい、なんとも掴みづらい敵だ。正体を現さないから攻撃しようにもできないし、これはどうするべきなのだろうか?


 あ、そうだ。あの子を呼ぼう。

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