第730話 ヒドラ


 そうしてあたり一面が荒野になってしまうほど掘り続けた俺は遂に、遂にソレを手に入れてしまった。


「これが、ヒドラニンニク……!」


 それは地中に埋まっていて、ぱっと見は草にしか見えないのだが、地下に埋まってる部分——つまりは食べるとこだな——は毒々しい紫色をしていた。


 でもやっとの思いで手に入れることができたニンニクが一個って絶対に少ないよな? でも、これ以上先に進んでもバイオームが違うから恐らく生えていない。


 これはもう、運が悪かったと諦めるしかないな。


 俺はニンニクにしては少し大きい、ヒドラニンニクを片手に、食死処を目指して駆け出した。


 ❇︎


「し、師匠! た、助けてください、もう、もう無理ですー!」


 俺が店の中に入るや否や、弟子のカイトが俺にそう縋ってきた。そしてその奥には大量の空の容器が重ねられており、店内はニンニク臭で満ち溢れている。


 確かにこれは常人なら今にも吐き出し逃げ出しそうな環境だ。


「師匠が全然帰ってこないから、ニンニクが切れちゃって、ソレでこのババ……お婆さんが毒の耐性もつけるさね、とか言ってありとあらゆる毒の入った食べ物を食べさせてきたんですよ!

 おかげさまで今ではもう、毒無効なんてスキルもゲットしちゃいましたよ……」


 トホホ、という言葉が一番合う顔を浮かべながら弟子はそう言った。でも、ニンニク切れて毒物を食べさせてくれるなんてありがたい限りだな。ま、その分お金を請求されるんだろうが。


「そうか、よく頑張ったな。ただ、まだニンニク無効は手に入れてないんだろ? ならまだ続けないとな。

 あ、それと婆さん。ニンニクを掘りに行ったんだが、これしか手に入らなかったんだよ。これじゃあ流石に足りないよな…?」


 そう言って手に持っていたものを婆さんに見せると、婆さんは驚きの表情を浮かべた。


「アンタ、それはヒドラニンニクじゃないか! どうしてそれを? もしかして、アンタ、ニンニクの群生地一体を探し回ったのかい?」


「ん? まあそうだけど、これがどうかしたのか?」


「これはね、このヒドラニンニクってのはね、毒ニンニクの群生地に一つあるかないかって言われるほど貴重な食材なんさね。まさかコレを持ってくるとはね……

 ん、アンタもしかして毒ニンニクがどんな見た目してるか分からずに行ったのかい? 毒ニンニクってのは一見は普通の草みたいに見えるから、引っこ抜いてみないと分からないんだよ?」


「え、うん。だからこれも最初見た時は……って、もしかして」


 俺は婆さんの発言の意図に気づいて慌ててアイテムボックスの中身を確認した。すると、そこには、


「あ、ある」


 毒ニンニク、と表記されたアイテムが夥しい数存在した。どうやら俺は毒ニンニクを知らず知らずのうちに乱獲していたようだ。コレはもう一生毒ニンニクには困らないかもしれない。


「おー、よかったな、弟子よ。これでまだまだ修行を続けられるな!」


「こ、コレは修行じゃなくて、苦行です……」


 その後、弟子は婆系ラーメンを食べ続け、俺はアイテムの整理をした。問題のヒドラニンニクは自分で持っておくことにし、残りのというか全ての毒ニンニクを婆さんに渡した。


 すると、いひひひひ、これで一生困らないねぇ、とか言って不気味に笑ってた。そして、この大量の毒ニンニクのおかげでお金は払わなくてもいいと言われた。正直お金なかったから助かる、ありがたく甘えておこう。


 そして、遂にその時がやってきた。

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