第724話 特訓開始
「し、師匠……これは?」
「ん? 俺みたいになりたいんだろ? その為の特訓だ」
「え、えぇそれはもちろん師匠が言うのだからそうなのでしょうが、それにしてもそのー……意図というか何というか、何のためにこれを行っているのかを教えてくださってもいいのではないですか?」
俺の弟子である吸血鬼のカイトとずーっとこんな会話をしている。俺たちが今何をしているかというと、そ、日光浴だ。
まあ、日光浴と言っても日当たりの良さそうな山の頂上で瞑想をしているだけなんだけどな。
「今、している瞑想ってのは集中力を上げてくれる。集中力ってのは何も戦闘中だけに役立つものじゃないんだぞ? 何かを身につけようとする時、その効率を上げてくれるものなのだ。だからこそ、これを一番最初にすることでこれから行う全てのことに良い影響をもたらすのだ」
「な、なるほどー! その為だったんですね! 師匠はその内分かるとして言ってくれなかったから、疑ってたわけじゃないですが、心配になってましたよ! でも、そういうことならなんでこんな陽が照りつけるところでやってるんですか? 別に室内でもいいような……?」
「ふっ、それこそ今に分かるさ」
「えー、それを教えてくださいよー! だって、吸血鬼は日に当たるだけでダメージを食らうんですよ? その説明を一番にすべきだと思うんですが!」
「まあまま、落ち着け。ほら、俺も今は吸血鬼になっているだろう? ってことは俺もこの痛い陽射しを耐えているんだ。ここは俺を信じてついてきてくれ」
「えっ、師匠……? わ、わかりました、そこまでいうなら。でも、なんで師匠まで吸血鬼に?」
そこから二人を静寂が支配し、ゆったりとした時が流れていった。
❇︎
「あっ!」
先に口を開いたのは、やはりカイトだった。
「おいおいおい、集中しろよ。集中ってのはな、意識の連続なんだ。意識し続けないと意味がないんだぞ?」
「いや、そうじゃなくて、僕、もう死にそうなんです! もう、残りのHPがほとんど———
「【慈愛之雨】、ほらよ。何の為に俺がいると思ってんだ。死なせはしねーよ」
「あっ、ありがとうございます」
それからも二人の瞑想は続いて、ついにその時がやってきた。
「あっ、師匠! 遂にスキル【瞑想】を手に入れましたよ! 瞑想をしている間徐々にMPを回復ってとても強力じゃないですか! 師匠はこれが狙いだったんですね!」
「ん、いや違うぞ? それよりも別のスキルを手に入れていないか?」
「え、違うんですか!? 別のスキルって……あ、もしかして日光耐性ってやつですか?」
「おぉー! それだそれ、でもまだ耐性なのか」
俺はもう日光無効まで手に入れたんだが、日光の当たる量が少なかったのだろうか? いや、俺は死に戻りしてたから、そっちの方が早く熟練度が溜まっていくのだろうか?
「まあ、とりあえずまだ続けないとだな。俺はとりあえず終わったから、もう少し頑張るんだな」
「え、どういうことですか? とりあえずってどういうことですか? なんで吸血鬼なのに日光耐性をあげるんですか? って、瞑想は関係ないってことですか?」
「まあまあ、落ち着け。というよりもうちょっと自分で考えろ。別に俺は無駄なことをさせてるわけじゃないんだ。俺についてくるならもう少し俺を信じるんだな」
「えっ、自分で考えろ……」
「そうだ。人のすることには必ず何かあると思え。それが自分にとって都合の良いことでも悪いことでもな。そうしないと、強くなっても意味がいないぞ? 強さってのは腕力だけじゃないからな。もう少しここで瞑想して色々考えてみるんだな」
「は、はい」
❇︎
「はぁー、全く師匠なんてやるもんじゃないな」
弟子を置いて城に一旦帰ってきた俺は、そう愚痴ってしまった。だって、師匠とかやったことないし、どこまで手助けして良いかわかんないし、もう大変だ。
それっぽい事を常に言わなきゃ言わなきゃって思って結局自分でも何言ってるかわかんないし、これは少し考えないといけないのかもしれないな。
俺はその後、ペットであるアイスとドラゴンでひとしきり癒された後、再び弟子の元に向かうのであった。
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