第723話 強くなる とは


「なあ、お前は強くなりたいというが、強くなるってどういうことだと思う?」


「え、強くなるってことがどういうことか、ですか……そりゃ、今までにないパワーを身につける、とかじゃないですか? それによって倒せなかった敵が倒せたりしたらそれは強くなっているってことですよね?」


「ふむ、まあそれも強くなると言えるだろう。ただ、本当にそれだけだろうか? それだけが強くなるということなのか?」


「えっ……違うんですか?」


「そうだな、まず強くなることについてちゃんと理解しなければならない。なぜなら、強化とは必ずしも一つの方向とは限らないからだ。例えば、攻撃力の効果、これは先ほどお前が言ったものだな。これも確かに強くなれる一つのルートだが、防御力をあげたらどうなるだろうか?」


「防御力、ということは自分が死ににくくなって、結果的に敵に勝てる可能性が上がる、という訳ですか?」


「そうだ。まずは固定概念に囚われない、これが非常に重要になってくる。防御力だけじゃないぞ? 敏捷を上げることで敵の攻撃を避けたり素早さで相手を翻弄することができる。器用さについても同じことが言えるな」


「な、なるほど! 流石は師匠です!」


「だがこれで満足してはいけない。強化には方向性があると言ったが、強化には限りがあるのだ。それは自分の体質であったり、時間の制約、他にも種族的なものもあるかもしれない。それらを総合的に判断した上で自分はどういう風に戦っていきたいのか、それを決める必要があるのだ」


「なるほど、単に強化と言っても全てを強化できるわけではないから、自分と相談して何を重点的に伸ばすか、というのを考えなければならないということですね」


 お、飲み込みが早いな。やはり俺と会っていない間で相当INTが上がっているのではなかろうか?


「うん、そういうことだ。他にもその環境に合った伸ばしやすさ、というのもあったりする。強くなるには様々な要素が複合的に絡み合う。だからこそ、俺はお前に自分の行きたい方向を言って欲しいと思っている。それに合わせて俺が全力でサポートしてあげるからな」


「し、師匠……!」


「だから、まずは自分とよく話し合って、どの方向に進むか、どんな自分になりたいのかをよく考えてくれ。それが決まったら一緒に強くなる方法を考えよう」


「はいっ!」


 よし、ひとまずこんな感じでいいだろう。適当に師匠感を出すために色々言ってみたが正直なとこそんなに自分でもわかっていない。最終的にアレをする、っていうのは決めてあるから、それまでにコイツが好きなように強くなってほしい。


「師匠、決まりました!」


 お、早いな。これが決まるまでは俺の自由時間になると思っていたのだが、少し甘かったようだな。自分の行く道だからしっかり考えて欲しいのだが、目を見る限り覚悟はしっかり決まっているようだ。


「そうか、じゃあ教えてくれ。お前はどんな風になりたいんだ?」


「はいっ! ぼ、僕は……師匠みたいになりたいですっ!」


 、、、え? 俺?


「俺みたいに、か?」


「はい! どんな攻撃をも無効化し、圧倒的力を持って他者をねじ伏せる。そんな人になりたいです!」


 おうおう、だいぶ理想が高いな。って、俺ってそんな感じに見られてるのか? 少しヨイショしすぎじゃなかろうか。まあ、嫌な気分にはならないからいいのだが。


「それがどんなに険しい道であっても、か?」


「はい! どこまででも共に強くなります!!」


 まじか、なら先ほど言った最終的にしよと思っていたアレ、やっちゃいますか!






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