第718話 白王


 私の名は白王、今回の魔王城大規模レイド攻略のリーダーだ。


 私は魔王が現れた時から、常にこの時は待ち望んでいた。そう、私が魔王を打ち倒す瞬間を。


 突如現れた魔王は、我が物顔で巨大な城を建てた。あのような立派な城は低俗な魔族の王なんかより、よっぽど私の方がお似合いだ。だからこそ、今回は攻略戦でもあり、奪還戦でもあるのだ。


 だが、もちろん私も単騎で攻め込もうなど思っているほど、馬鹿ではない。おそらく私よりも魔王は何倍も強いのだろう。だからこそ私は王として兵を集めた。


 報酬は魔王城に眠る金銀財宝だ。魔王は善良な民を虐殺し、懐に莫大な富を抱えているに違いない。ならば、それも奪い返し、民に再分配するのが王としての役目だろう。


 自らが先頭に立ち、圧倒的な正義を持って悪を討ち滅ぼす。ふっ、そう、私こそが新時代にふさわしき、新たなる王なのだ!


「白王様! 情報が入りました、どうやら魔王城の第一層は水で満たされているようです!」


「なるほど、では水中呼吸ポーションを作らせろ。もちろん人数分だ。まさか魔王も大軍が水中でも活動できるようになって侵略してくるとは思うまい」


「はっ、かしこまりました」


 そう、私は聡明でもあるのだ。情報収集を怠らず、それに対しての最適解を必ず導き出す。王としての気質、そしてこの聡明さに加えて、武力、これら全てを兼ね備えている私が魔王城を攻略するのだ。魔王なんぞに負ける道理がない。


「白王様! 情報が入りました、どうやら魔王は次の月に弱体化されるようです。なんでも、相性が悪くうまく力が発揮出来なくなるとか……」


「ほう、それは真か! ならば、来月の頭に一気に仕掛けるぞ。それまでに傭兵を含めた各部隊の準備を完璧に整えるように!」


「はっ、かしこまりました」


 フハハハハ、どうやら天も私に味方してくれているようだな。まさかこのような幸運まで下さるとは。それに、私の情報網が凄いのだ。このような普通では手に入らぬような情報ですら、易々と仕入れることができてしまうのだ。


 これは、魔王の首を取るまで待ったなし、のようだな。


 ❇︎


 とうとう、明日が決戦の日だ。皆、準備が整い、万全の状態である。ふふふ、魔王を今は完全に油断しきっているのだろう。貴様には目にもの見せてやろうぞ!


「白王様! さらに新たなる情報が入りました、どうやら魔王は次の月の三の週に、より弱体化されるようです。なんでも、季節柄、魔王にとって最悪の気流になるとか……」


「そうか、では延期をしよう。ここは人事を尽くすべきなのだ。それからでも天命を待つのは遅くない」


「はっ、かしこまりました」


 うむ、我が情報収集部隊は余念がないな。素晴らしく優秀である。人事を尽くすことの大切さをよく知っている。我ながら良い部下を持ったものだ。


 ❇︎


 そして、遂に三の週がやってきた。もう躊躇うことはない。役者はそろった。今こそ、魔王に一泡を吹かせるのだっ!


「白王様! さらに最新の情報が入りました、どうやら魔王はこの週の四日目に最も弱体化されるようです。なんでも、月の数字、週の数字、そして日の数字までも全てが魔王に対して悪影響を及ぼし、もはや動きをとることもできなるなるとか……」


 ふむ、そうなのか。私としてはもう魔王を倒せる気しかしていないのだが、部下がこう言っているのだ、部下を立たせてあげるのも王としての役目だな。それに、念を入れすぎる、ということはないのだからな。備えあれば憂いなし、ということだ。


 ❇︎


 ふふっ、フハハはは! とうとうついにこの時がやってきた! この悪しき世界に一筋の光をもたらすために私が来た。魔王よ、今更悔いても無駄だ、今こそ奴の鼻をあかそうぞ!


「白王様! 最も鮮度の高い情報が入りました、どうやら魔王は十時間後に極限までに弱体化するようです。時刻までもが魔王に作用し、もはや寝ている状態で呼吸することが精一杯であるとかなんとか……」


「分かった。では十時間後だな。ならば九時間後に出発するとしよう。我らの世界はもうすぐそこまで来ている」


「はっ、かしこまりました」


 ❇︎


 そうして、我が軍は魔王城に向かって進軍し、全ての準備を整えてその扉を開けた。するとそこには一切の水がなく、何もない空間がそこにあるだけであった。

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