第717話 敵襲と篝火


「ご主人様、敵襲です! 敵の数はおよそ五千です!」


 うん、報告通りだな。あの少年の初仕事は大成功のようだ。となると、報酬も用意してあげないとな。


「よし、今回は俺がいく。第一層と二層を入れ替えて、俺が直々に相手をしてやろう」


 配下達にそう伝えると、俺は城の層を入れ替え、斧を装備した。うん、これを握ると魔王モードにすんなり入れるな。悪くない気分だ。


 それに加えて、一応顔バレを防ぐ為の仮面も用意してある。アスカトルに作らせた。耐刃、耐熱性能を備えているので、もしもの時も安心なものだ。


 アスカトルは本当に器用で、なんでもこなしてくれるので、とてもありがたい。


「よし、では逝ってくるか」


 配下に見守られながら俺は転移し、第二層へと移動した。


 ❇︎


 第二層、今は第一層だが、に移動するとそこにはゾムがいた。一層と二層にはもしもの時の為に、海馬とゾムに常駐してもらっている。


 だが、今回その二人に仕事はない。だから、ゾムには他の配下達がいる謁見の間に移動してもらおうと思ったのだが……


「グァ、グァ」


 転移させようと奥の扉に連れていこうとしたら、何故か嫌がる素振りを見せた。今まで、ゾムは俺の言うことを聞かなかったことはない。こんなことは初めてだ。


「ゾム、お前ここから離れたくないのか?」


「グァ、グァ」


 言葉では分からないが、微かに首を横に振っているように見える。それに先程嫌がった時の言葉と一緒だから、NOってことなのだろう。


「じゃあ、俺から離れたくないのか?」


「グァ」


 え、まさかのビンゴ? 正直当たる気はしてなかったのだが、俺から離れたくないってどういうことだ?


 もしかして懐いてる、とか? もし、そうだとすると、無茶苦茶可愛いんだが? 


 確かにずっと一人でこの第二層を守っていたから寂しい気持ちになるのも当然かもしれない。海馬は同居人がたくさんいるが、ゾムは完全に一人だからな。


 そして、多くの敵を倒すうちに知能が上がったのかもしれない。だからこうして自らの意思を俺に伝えてきたのか。


 クッソー可愛い奴だな!


「なら、俺の肩に乗っておけ、そうすれば大丈夫だろう。俺の活躍を一番近くで見ておくんだぞ?」


「グァ!」


 ふふっ、心なしか表情のない顔が嬉しそうにしてるような気がした。今後はちゃんと配下たちと触れ合わないとな。今後の課題だ。


 ギィーーーーーーッ


 俺がゾムとイチャイチャして、ちょうど肩に乗った辺りで、扉が開いた。そして、奥からゾロゾロ、ゾロゾロと人がたくさん入ってきた。


「……」


 長いな。これって、この入ってる途中に攻撃とかしちゃダメなのか? ちょっと試しに撃ってみてもいいかな?


 あ、どうやらシステム的に攻撃できないようになっているらしい。そして、相手からもどうやら俺が見えていないらしい。


 パーティメンバーが全員戦闘準備完了になったら俺が見える仕組みらしい。まあ、確かに俺みたいなズルい考えをお互い防ぐ為の措置なんだろうな。


 相手は見えてないからまだいいだろうが、ダラダラと入ってくる様子を見せつけられているこっちの身にもなってくれよ全く。


 お、準備完了みたいだ。俺側は入ってくるのは黙って見せつけられる代わりに好きなタイミングで登場できるようだ。じゃあ、魔王、アックスモード初お披露目と行きますか!


 ブゥウン、ザワザワザワ


 俺が姿を見せると急に騒がしくなった。確かに、いきなり魔王が現れるとそりゃ驚きもするか。俺がいつ鬼火を撃とうかななんて思案していると、群れの戦闘に一人の男が現れた。


「勧告する、道を開けろ。こちらは五千もの兵を従えている。貴様も死にたくなくばさっさと立ち去るのだ」


 は、何こいつキモ。肩の上のゾムもプルプルしてお怒りのようだ。これは、極刑だな。魔力を適当にごっそり確保して、、、


「【鬼火】」


 この階層を丸ごと埋め尽くさんとするほどの大きさになった鬼火は、そのまま、五千の群れを一飲みにしてしまった。


「条件を満たしました。スキル【鬼火】が【鬼炎】に進化します」

「条件を満たしました。スキル【鬼炎】が【燐火】に進化します」

「条件を満たしました。スキル【燐火】が【燐炎】に進化します」


 ん、んん!?

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