第716話 楽しみと報告


 その後、ひとしきり閻魔様に笑われてから、行きと同じようにヴァールに送ってもらった。


 ヴァールとの去り際に感謝を述べたところ、「まさかあれほど強いとは思いませんでしたよ。ですが、貴方の配下になるのはどうやら保留のようですね」と言われてしまった。


 しかもウィンク付きで。くそう、イケメンはかっこいいから何をしても許されるんだな。全く、普通にキザで格好良かったじゃねーか。


 それにしても、確かあの側近のように思えた鬼の女性は、俺と大王の戦いが見えてたわけじゃなかったよな? なんでヴァールにはバレてんだ?


 閻魔様のセリフから推測した可能性もあるが、今の言い方は見えてたと言わんばかりだったんだよな。もしかして、ヴァールって獄界序列を詐称してるのか? いや、でもそんなことしたら閻魔様が許すはずがないか。


 でも、ヴァールならその序列決定戦みたいな所で手を抜く、なんてことは余裕でしそうだ。


 ま、俺は俺で強くなるだけだな。今回、獄界に行って初めてライバルという存在を見つけたのかもしれない。俺が心の底から倒したいと思えるほどの敵、超えたいと思うほどの壁だ。


 首を完全に落としたのに死なないってなかなかのチートだよな?


 久しぶりにやる気が出てきた。今、俺はめちゃくちゃ強くなりたいと思っている。まずは鬼火の強化といったが、そのほかにもまだまだすることは山積だ。これから少し、楽しくなるな。


 ❇︎


「たっだいまー!」


 っふーー、 やっぱり本拠地は落ち着くな。実家のような安心感がある。獄界ではなんだかんだずっと気を張ってたからな。精神的にもスキル的にも。だから、ここではまったり、


「ご主人様、連絡が入っております」


 俺が玉座に座って、まったりしようとした瞬間に、アスカトルがやってきた。


 ん、俺に連絡? 閻魔が俺に連絡するにしては早すぎるし、あの携帯みたいなものは俺が持ってるからな。俺に連絡してくるやつなんていたか?


「すまん、誰からだ?」


「はい、以前この城にやってきて魔王軍に加えて欲しいといって、スパイとなりました人間からです。ご主人様が獄界に行ってらっしゃる間は連絡がつながらなかったので、お帰りになって早々に申し訳ないのですが、何度も連絡があり、緊急である、とのことでしたので、取り急ぎお持ちして次第でございます、キシャ」


 お、アスカトルにしては全然キシャらないな、と思っていたが、最後の最後で出たな。まあ、不快じゃないし、なんなら可愛げもあるから、もっと出してもいいのだが、俺に気を使って敬語で話しているから出にくくなっているのだろうか?


 そんな、気遣いなんていらないのにな。


 って、あのメガネの少年からか! スパイに出してたことなんて、すっかり忘れてたな。確か、強敵を探すよう言いつけておいたと思うんだが、もう見つかったのか?


「では、彼の者にお繋げ致します」


 ってか、よくよく考えると、このアスカトルの配下同士とどれだけ離れていても連絡ができるってすごい便利だな。糸電話の最終進化形態なのだろうか?


「もしもし、聞こえるか、こちら魔王だ」


 あれ、電話かける時っていつもどんな感じだったっけ? 最近電話なんてしないから、忘れたぞ? それに魔王としてかけるなんてないから、どんな感じで行けばいいのか全く分からない。とにかく、ここは雰囲気で誤魔化すしかないな。


『は、はひっ! ま、魔王陛下にお伝えしますぅ! げ、現在、ぷr、人間どもが軍を成して魔王城へと攻略しようとしております! 総勢、約五千ほどです! なんとか誤情報や噂を流布することで出軍を遅らせたのですが、もう限界に来てしまったようです、明日にはそちらに到着するかと思われます! 報告が遅くなり、大変申し訳ございません!」


「了解した、貴重な情報提供、感謝する。それと、今後も魔王軍の一員として活動したいのならば、声の音量を下げろ、どこに人の耳があるのか分からぬだろう? それともっと端的に必要な情報のみを伝えよ。貴様の過程や頑張りなど知らぬ。そして、報告が遅れたのは我のせいだ。他人のことまで自分の勘定に入れるでない。ただ、我に報告できるまで、遅らせたことは褒めて遣わす。今度時間がある時に我が城へ来い。では、切るぞ」


 ……はぁ。やっぱ人と電話するの苦手だなー。でも、初仕事にしては上出来なのではないだろうか?


 なんか言い方がキツくなってしまったのは魔王口調だからで、彼を責めるつもりは全くない。


 声量を落とせといったのは単に俺の耳がキンキンするからで、もっと端的に伝えろっていうのも俺が長電話したくないからで、最後のは単純に申し訳なくなるからだな。


 うん、言い方はキツかったけどちゃんと伝わっているよな?


 よし、では報告してくれたから、そちらの相手をしますか! 五千人だろ? そんだけいれば流石の鬼火も進化してくれるよな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る