第715話 友


「あ、あのー、閻魔様一つ聞きたいことがあるんですけど……」


「ん、なんだ? なんでも聞けよ、なんたって俺らは友達だからな! ガハハハ!」


 おいおい、随分と陽気だな。もしかして閻魔様は強すぎて長い間友達はいませんでしたとかそういう感じか? まあ、仲良くしてる分には全然いいんだけどさ。


「えーっと、その死神のことについてなんですけど、このアクセサリーを持ってたら襲われるとかしないですかね?」


「おいおい、もしかしてあの魔王様が死神にビビってるのか? 安心しろ、死神は別に人を襲ったりはしないよ。というより襲えないっていう方が正しいか? あいつらは結構ルールに厳しくてよ、ズルして死後の世界に入ろうとする奴には厳しいけど、それ以外の奴らには基本的に何もしねぇ。それがアイツらのルールらしいからな」


「へぇーそうなんだ。って、アイツら?」


「ん、あぁお前ってば本当に何も知らねーんだな。まあ、人間だから仕方ねーか。死神ってのは俺らみたいに一つの個体ってわけじゃなくて、概念みたいなもんなんだよ。だから、数は結構いると思うぞ? 少なくとも死後の世界の数分だけはいないと、治めらんねーからな」


 ちょ、ちょっとここに来て新情報が多すぎるんだが!? 死神っていうのはそういう存在じゃなくて概念なのか。まあ、確かに実体はなさそうだし、分からなくもないんだが、そんなものを敵に回したら負け確だろう。


 ズルしてこっちに来ようとする奴らには、本当に死んでもらいますよ、ってことか。それって本末転倒なんじゃ……


「ん、ってことは俺が死んでもないのに、冥府の一部であるここ獄界に来れているのは、このアクセサリーを持ってるから、ってことでいいのか?」


「んあ? ま、そういうことだな。お前は確かヴァールに連れてきてもらってたんだろ? だから本来はあそこでお前の魂ごと破壊されてただろうよ。死神は、対象を殺すっていうよりは破壊するって感じだからな」


 なるほど、だから大丈夫なのか。ズルして死後の世界に行こうとしてる奴を、魂ごと破壊して存在を抹消してるのか……こわっ! 本当にこの死神のペンダントを持っててよかった。


 え、ってかもし、プレイヤーの魂を破壊されたらどうなるんだ? キャラロストとか? そうなってくるといよいよ笑えないな。


 ま、まあとにかく、俺はこのアクセサリーを持ってても大丈夫ってことだな。いわば死後の世界を行き来するためのツールみたいな感じで捉えておけばいいだろう。ほんと、死神に目をつけられる、なんてことにならなくてよかったな。もうちょっと後先考えて行動したほうがいいんだろうか?


「おいおい、それよりも俺にばっか話させないでお前のことも聞かせろよ。そもそもなんでタダの人間が魔王なんて名乗ってるんだ? 確かにつえーのは認めるがよ、何があったんだ?」


 お、今度は俺のターンというわけですか。


 俺は閻魔様に聞かれるがままに正直に答えた。なんか話しているとなんか悪い奴じゃなさそうだし、死神のこととか色々教えてくれたから、別にもう隠すことなんてない。


 ま、聞かれてないことについては答えないんだけどな。


 ❇︎


「ぷはははは! お前、天使に喧嘩売ったのか? なんだよそれクソおもしれーじゃねーか! 俺も呼んでくれたら直ぐに行くのによー。でも、あいつら数は多いしプライドは高いしで面倒くせーだろ、大丈夫だったのか?」


「あぁ、まあなんとかな。これでも一応魔王だからな」


 天使の話になると、急に笑われた。獄界も天界も一応冥府だからな。ん、ってことはあの時も実は死神のペンダントのおかげだったのか? 危なかったな、危うく魂ごと破壊されてる所じゃねーか。


「んな、そうだ。お前にも配下たくさんいるんだろ? じゃあ今度お互いの配下で大会みたいなの開こうぜ。閻魔対魔王の五番勝負みたいな感じでよ! クソ面白そうじゃねーか?」


 ん、確かにそれは面白そうだな。となると、誰を選ぶかが問題になってくるな……誰にしよ。


「ま、また今度だな。とりあえず、俺は向こうで用事とかあるし」


「んお? もうそんな時間か。今日は久しぶりに楽しかったぜ、また暇な時はいつでも来いよ! いや、暇じゃなくても来い!」


「あぁ、また直ぐにくる。次は五番勝負で決着をつけような。じゃ、また」


「おう!」


 今回の獄界旅行は非常に有意義なものとなった。新たな武器とスキルを手に入れ、そして何よりの宝である友もできた。これ以上にない出来だろう。さて、向こうに帰ったら何をしようか、とりあえず、鬼火でも進化させるか。


「……」


 あれ、どうやって帰るんだっけ?

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