第711話 謁見の間


 他に面白そうな場所がないかと思い、適当に獄界を観光気分で歩いていると、急に背後から気配を感じた。


 俺は慌てて臨戦態勢に入り、敵の位置を探ってみるものの、敵影らしきものは見つけられなかった。


 勘違いだったのかー。そう思い、観光を再開しようと前を向いた時、ソイツがいた。


「お迎えに上がりました。閻魔様がお呼びでございます」


「うぉっ!」


 びっくりしたー。そこにはなんと、一人の男がいたのだ。端正な顔つきで着物を召し、頭には烏帽子まで被っている。


 な、なんで? なんで人間が獄界にいるんだ? 


 いや、確かに俺も人間だけどさ。プレイヤーじゃん? それに、この人は多分NPCだよね? ってことはもとからこの獄界にいたってことだ。ますます訳が分からない。


 今までの閻魔の刺客から考えるに、人間をそこまで快くは思っていないはずだ。いや、ただクソ雑魚って言われて見下されてただけか?


 ま、まぁどちらにせよ好印象ではなかったはずだ。


 でも、閻魔様からの使者として人間が使わされてるってことは、ことは?……分からねーな、よし、もうウダウダ考えても仕方がない。


 この男についていって、その道中で色々話を聞くとしよう。むしろちょうど良かったな、道中ずっと沈黙、みたいな惨事にならなくて。


「よろしいですか? では参りましょう」


 ザッ


 ❇︎


「連れて参りました、閻魔様。こちらが獄界に現れた、怪しき人間でございます」


 一瞬、ザッ、と砂嵐のような音が聞こえたと思ったら、俺は謁見の場に来ていた。どことなく俺の城に似ているのは、製作者が同じだからだろうか?


 ……って、おい! 道中は? ど、う、ちゅ、う! 色々話を聞こうと思ってたのに、沈黙にならなくて良かったな、とか気を遣ってたのに!


 その時間とか、俺の想いとか諸々返しやがれ! 俺一人アレコレ考えて損した気分だわ!


「ふむ、そう逸るでないぞ。いかに貴様が人間の中で強かろうと、ここにいては無に等しいと知れ。ここには序列一位から四位までの四天王もいるのだ。諦めて話をしようではないか」


 閻魔様からそう告げられた。閻魔様は逆光で顔が見えないんだが、これは俺が昔使ってた、ギロチンカッター対策だろうか? ここなら使い手も一人くらいはいそうだな。


 別に逸ってないんですけど、っていいたい所だが、そんな雰囲気じゃないので、言葉は慎んでおく。


 それより、序列一位から四位までだって? それなら、俺の知り合いのヴァールがいるはずだ。


 当たりを見渡してみると、それらしき人がいた。でも少し遠いな。それに、俺が知ってる顔よりも少し凛々しい顔をしている。


 流石に閻魔様の前ではしっかりしているってこどだろうか?


「まず、貴様に問おう。なぜ、ここに来た?」


 唐突に話しかけられた。この閻魔様は絶対に前菜とか食べないで、メインからいくタイプなんだろうな、とふと思った。


 自分のやりたいこと、気になることが何よりも優先されるのだろう。そんな、王様は嫌だなー。


「私は、ここ獄界には強き力を求めてやってきました」


「ほぅ、強き力だと? それで望みのモンは手に入ったのか?」


「えぇ、おかげ様で非常に満足しております」


「はーっはっはー! おうおうおう、それは良かったなー。だが、誰の許可を取ってそんなことしたんだ? ここでは俺様の許可なければ生きていくことすら、いや、入ることさえ許されない。どうやって入って来れたかは知らねーが、貴様は少しはしゃぎすぎたようだな。粛清の時間だ」


 パチンッ


 閻魔大王が指を鳴らすと、当たり一面が炎に包まれた。


 どうやら、平和的解決は難しいようだな。

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