第709話 鬼火


 俺は、残り少ない残高を振り絞って、獄界スキルショップ店員のおすすめのスキル、鬼火、を購入した。


ーーースキル【鬼火】を獲得しました。


【鬼火】‥怪しい炎を灯す。この炎は使用者の魔力量に応じて威力が上昇し、相手を状態異常:やけどにする。このスキルはこのスキルで倒した敵の数に応じて進化する。


 俺は鬼火というスキルを買ったとき、そこまで強くはないと思っていた。そしてその考えはスキル効果の二文目を読んでも変わらなかった。


 しかし、最後の文、コレを読んで全てが変わった。


 おいおいおい、倒せば倒すほど進化してくれるのかよ。そんなスキル今まで見たことないぞ? 熟練度に応じてどうたらこうたらはあったが、ちゃんと進化してくれるとはな。


 婆さん、疑って申し訳ない。今はものすごく感謝している。今すぐにでも試し撃ちがしたい、今すぐにでも大虐殺をおっぱじめたい、そんな気分だ。


 んー、さっきみたいに誰かやってこないかなー。


「貴様が、人間界からやってきたという魔王か」


 お、サンドバッグ第二号か? こうもちょうどいいタイミングで来てくれるなんて最高だな。もう、ここまでくると閻魔様が俺に接待してるんじゃないかと思うほどだぞ?


「そうだ、と答えたらどうする?」


「無論、この剣で切り捨てるまでだ。私は、獄界序列六位、アスタル・リベトだ。ここは貴様のいるべき場所ではない。速やかに排除する」


 ここの人たちは本当に喧嘩っ早いな。それにしても序列六位か。ヴァールよりかは弱いけど、さっきの奴よりかは強いんだろうな。


「【抜刀術・四拍】」


 相手がそう口にした瞬間、相手の体がブレた。そしてそのまま俺に肉薄し、四連撃を繰り出してきた。


 なかなか鋭い、居合術からの四連撃だ。それでいて六位となると、この獄界の強さをいうものがわかるというものだ。


 だが、こちらも人間界も魔王としてきてんだ。お忍びならまだしも、魔王の姿で負けるわけにはいかない。


 キンキンキン、キンッ!


「ほう、閻魔様に狙われているのも伊達ではないようだ。ならばここから全力で参らせてもらうっ!」


 俺が、全ての斬撃を弾くと、相手はそう言った。あれが本気だったら楽だったのにな。だけど、もう相手の動きは見切った、当たる気がしない。


「【抜刀術・一拍】」


 そう、余裕をこいていたのも束の間。相手が先ほどよりも格段に速い動きで俺に迫ってきた。


 くそ、俺が見切ったなんてフラグを立てたからか? コレだと俺の剣が間に合わない……!


 キンッ


「あー、防げなかったか。ただまあ俺に剣は効かないんだ。すまんな、【鬼火】」


「なっ……!? なぜその技を貴様がっ!」


 相手をしっかり倒して、鬼火の糧にしたかったのだが、どうやら逃げられてしまったようだ。


 まあ、閻魔様といずれ会うなら、部下を殺してしまったら流石に問題かもしれないかし、今回は見逃しておこう。


 それに倒した数が大事なら、一体くらいすぐに倒せるだろう。

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