第682話 同業者


 ダンっ!


 僕は勢いよく扉を開けて小屋に戻ってきた。僕らのアジトみたいなもんだ。それにしてもあの人は一体………


「おー、カッチャもう戻ってきたのか? 首尾はどんな感じよ?」


「無理だ……」


「はぁ?」


「だから無理だったって言ってるだろ!」


「おいおいおい、マジかよ、また良心がとか言うんじゃねーよな? もうお前にも跡がないんだよ、グダグダ言ってないでさっさとやることやれやぁ!」


 ッドン!


 右頬を殴られた。このゲームは人から殴られる痛みも綺麗に再現してくれているようだ。


 僕は俗に言う初心者狩りだ。この女みたいな見た目を買われていつも初心者を釣ってくる役割を任されている。最初は軽い気持ちで始めたのに、いつしか抜けられなくなっていた。


「ち、違うっ! 今回は本気でやった! ずっと毒を盛るタイミングを見計らってたんだ! でも、でも一切隙が見えなかったんだ! おかしい、おかしいんだ!」


「おいおいおい、とうとう頭でもおかしくなってしまったか? お前、自分のレベル見てみろよ、そのこの近辺には似つかわしくない数字をよ! そんなお前が初心者一人手こずるわけねーだろーが!」


 ボゴン、ボゴン


 僕は蹴られながらも思った。


 いや、あれは違う。おかしい、おかしすぎる。


 なんであんなヘンテコ武器でスライムが弾け飛ぶのさ。確かにスライムは雑魚キャラだ。でも打撃にはめっぽう強いんだよ?


 それをなんかよく分からない白い棍棒みたいなので叩き潰すってどんな力技だよ!


 他にもモンスターが出る時は、僕なんかよりもずっと早く気づいているし、よく見たらモンスターはあの人を避けて僕のところに毎回向かってくるし!


 おかしい、あんなのが初心者なわけがない。おかしい、おかしすぎる!


「あっ、そうだ」


「あぁん? どうした?」


「いや、もしかしたらその人も初心者狩りかもしれないと思って。だって、初心者狩りは別に僕たちだけのものじゃないからね」


「ふむ、その可能性もあるのか。そうだ、なら俺がもう直接行こう。こんなやつを使ってみみっちいことするから面倒くさいんだ。もう、いいや、そろそろ人を斬りたくて仕方がねぇ。おいカッチャ、案内しろ!」


「は、はいっ!」


 多分この人は死んだ、と思う。


 ❇︎


 さっき来た道を引き返して、あの人を探していると、湖のほとりでようやくあの人を見つけた。


「あいつが、言ってたやつかぁ! 大したことなさそうだなぁ!」


 そう言って、先輩が斬りかかろうとしたその時!


 その人が湖に消えた。

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