第679話 始まりの世界


 いつぶりだろうか。


 俺を育ててくれたと言っても過言ではない、この始まりの街に俺は久しぶりにやってきた。


 折角だから俺は森に入って湖でも見てみようかと思う。全てはあそこから始まったと考えると、今こうやって強くなれていること自体が感慨深いな。


 よし、行くか! そう思った時だった。


「あ、あのー……」


 俺は不意に声をかけられた。俺の感知を潜り抜けて背後をとる、なんてどんな強者だ!? 


 とも一瞬思ったが、よくよく考えればここは始まりの街だ。俺の脅威になる敵ではない、ということなのだろう。


 そう思い振り返るとやはり、似たような見た目の初心者のプレイヤーがいた。


 しかし、容姿は似ても似つかない、中世的で綺麗な顔つきをしていた。男と言われても女と言われても、どちらでも納得できるような、そんな顔だ。


「ん、どうされました?」


「もしかして貴方も最近このゲームを始められたんですか? もしよければ探索をご一緒させていただきたいのですが……」


 なるほど、一人では不安、ということか。しかも、最近始めたプレイヤーというのは案外少ないものなのか、他にアテがなかったのだろう。


 偽りの身ではあるが、一応先輩として付き合ってやるか。


「はい、いいですよ」


 ❇︎


 そう言って今日初めて会ったプレイヤーとの探索が始まった。


「あ、アレはスライムですね! ど、ど、ど、どうします?」


 彼? 彼女? はとても緊張しているようだ。スライム相手では俺じゃなくても死ぬことの方が難しいのだろうが、こういうゲームは初めてなのか、凄い緊張ぶりだ。


「じゃあ、まずは私が倒してみますね。次敵が現れたら任せますので、交互に倒していきましょう」


「は、ひゃいっ!」


 うむ、ここは先輩としてスライムくらいなんてことない、ということを示してあげないといけないな。


 でも圧倒的すぎても遠くに感じてダメだから、いい感じに演じきる。


 ちなみに武器は街に売ってたやっすいナイフにアスカトルの糸をぐるぐるに巻きつけたものを使う予定だ。


 この糸は武器が弱くてもステータスの補正があるから、ダメだと思ってのことだ。切れ味が無ければかなり威力は落ちるだろう。


 あの時の俺はそう思っていた。


 グチャァッ


「い、一発……お、お強いんですね」


 これは不味い。まさかここまでの威力が出るとは思って無かった。まるで鈍器のような威力でスライムを粉々、いやビチャビチャにしてしまった。


 これはなんとか誤魔化さないと。


「あれ、おかしいですね。いつもは二回くらい攻撃しないといけませんのに……クリティカルでも出たんですかね?」


 このゲームにクリティカルがあるかどうかは知らない。会心の一撃があるかもわからない。


 ただ、なんとか俺がスライムを一発で惨殺したことは誤魔化せたようだ。

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