第677話 少年の苦悩と決意


「ふぅ……」


 これでやっとスタートラインに立てたみたいだ。


 ❇︎


 魔王の出現、それはプレイヤーからすれば大きすぎるイベントだったと思う。実際、僕にとってもそうだった。


 でも、僕からするとそれよりも重要で、あり得ないことが起きていた。


 そう、僕が憧れていたプレイヤーであるライトと、まったく声が同じだったのだ。それだけじゃない、背格好やその目に宿る炎すらも、だ。


 僕は一目で同一人物だと認識した。


 しかし、それと同時になぜ? という疑問が僕に降りかかり、随分と悩まされた。普通に考えれば魔王はNPCで運営側、プレイヤーとは対極の立場なんだ。


 それなのにも関わらず、彼が魔王として存在していた。


 もしかして運営が彼を参考にして魔王をプログラムしたのではないか、とも思ったが、それよりかは彼が魔王をしている方が現実味があった。


 とにかく、完全な証拠なんてなかったけど、僕の直感が、魔王の正体を教えてくれた。


 それでも僕は行動に移すのを躊躇っていた。どうすればいいのか分からなかったから。


 でもそんな時、天魔大戦というイベントが起きた。これは運営が僕に魔王の味方となれ、と言われているような気にすらなった。


 しかし、第一層から第二層に向かうというその簡単そうに見える試験で落とされてしまった。


 僕には魔王軍に絶対的に必要な、力が足りなかった。


 僕以外にも多数落とされているようだったからまだそこまで落ち込まなかったけど、それでも悔しかった。ああ、自分じゃダメなのか、と。


 それでも、それでも僕は諦めなかった。いや、諦め切れなかった。


 僕はプレイヤーとしてイマイチだ。戦う戦士としても情報を集める情報屋としても才能はそこまでなかった。


 それでも楽しめるといえばそうなんだけど、誰しも特別になりたいという気持ちはあると思う。


 そして僕はそれに憧れていた。


 圧倒的な強さと異質さを持つ彼に。


 僕は考えた。考え続けた。僕を魔王軍に入れる方法を、僕を魔王の為に役立たせる方法を。


 よくこのゲームではNPCも人と思えという格言がある。だが、僕は魔王は人だと知っている。これは他のプレイヤー、それこそ魔王に対してすらもアドバンテージになり得る。


 そして、相手が人だからこそ、強い信念や目的なんかよりも、メリットを提示さえすれば可能性はあると踏んでいた。


 それを最大限に有効活用する方法、それを見つければ必ず僕は勝てる。そう信じていた。


 そして、どれくらいの月日が経っただろうか。僕はようやく魔王城に歩みを進めた。


 力がないなら、それ以外を活かせばいい。無力故の知恵、それを使って魔王様の役に立つんだ!

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