第676話 魔王様の対策


「ではよろしく頼む」


 そう言って俺は彼を城から送り出した。


 俺は送り出す際に、小さなネックレスをプレゼントした。トップには白い真珠のようにすら見える繭がつけられており、そこにはアスカトルの小さな配下が潜んでいる。


 まあ、元も子もないことをいえば転移先の目印ってとこだな。


 本人も喜んでいたし、大丈夫だろう。これからの仕事ぶりには本当に期待しているしな。二重の意味で役に立ってくれるだろう。


 あ、そういえば名前聞くの忘れてたな。ま、名前なんて呼ばないから大丈夫だよな。


 でも、中身は人間ってバレてるからな。非常識なやつだと思われていないだろうか?


 ……まあ、それ含めてロールプレイってことで、よろしくお願いします。


 ❇︎


 さて、気を取り直していきますか! 彼に初任務はしっかりと言い渡してあるし、今回の一連のテーマであった武力以外での人間、プレイヤーたちへの対策、というのはひとまず良さそうだ。


 これからは何をしようか。


 魔王になって見て気が付いたのだが、魔王って案外受け身なんだな。今回も彼が来てくれたから仕掛けることができそうだが、それでもなきゃ他にどんな手があるのかすら思いつかない。


 いっつも魔王様は自分の城に引きこもって勇者の到来を待って、結局倒されるんだろ?


 あれ、魔王軍って意外とブラック? いや、ブラックじゃなきゃおかしいのか? いや、もういいや、よくわからなくなってきた。


 というわけで今回は冒険者に戻ろう! 本来のプレイヤー目線に立つことで何か新しい発見があるかもしれないからな!


 これが俺なりの人間たちへの新しい角度からの対策だ。


 よし、そうと決まれば早速準備だな。魔王が平然と始まりの街を闊歩していたら流石に不味いどころじゃ済まされないだろう。


 偽装は完璧にしておく必要がある。もしバレて尾行されたりしたらどれだけ損害を被るかもわからない。


「あ、」


 そうだ。冒険者、始まりの街、とくればあの格好があるじゃないか。魔王は今の格好、というのがプレイヤーにも染み付いていると思うから、あえて逆をつくことで堂々と歩くことができるだろう。


 そう、昔散々お世話になった、あの初期装備だ。


 ❇︎


 ふぅ、意外といい感じだな。昔の装備だからサイズ感とか心配だったがちゃんときれたようだな。


 でもこれを着るとどことなく安心感があるよな。しっくりくるというか体に馴染むというか。色々、これを着ていた頃のことを思い出して、懐かしいような、気が引き締まるような、そんな変な感じだな。


 ま、とにかくこれならまず間違いなく初心者プレイヤーと思われることだろう。これで堂々と人間界をお散歩できるな!

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