第668話 担任の先生感


 いや、何も無かった、と言えばそれは嘘になるかもしれない。視界にはちゃんと次の階層に行くための門が設置されている。


 もしかして、ここは踊り場的なもので、このまま通してくれるのだろうか。そんなことが頭をよぎったりもしたが、さっき、休憩ポイントのような、セーフティゾーンはあった。


 だからここは確実に第二層のはずなんだが、、


「……」


「うぉい!!! 誰もいねーぞ! っどーなってんだ!」


 アッパーが痺れを切らした。皆もザワザワし始めている。もしかしてこれが魔王の狙いなのだろうか。集中力を切らした所に奇襲をしかけてくるなど、全然あり得る。


「皆、奇襲が仕掛けられるかもしれない! ここは今一度集中しよう! このままでは魔王の掌の上だ!」


 私はそう喚起した。そう、ここはそもそも魔王城、相手のホームだ。いくら気をつけても気をつけすぎることはないだろう。


「…………」


「うぉい!!! 誰もこねーぞ!っどーなってんだ、シャークっ!」


 今度は先ほどよりも静寂が訪れた。おそらく皆私に答えを求めているのだろう。


「おかしいな。このままだと次に進めてしまうぞ? そんなことがあるはずがない。そんなことをすれば恐らくなんらかのペナルティがあることだろう。ここは我慢比べをするほか無い」


「チッ、わーったよ! でも後五分して出てこなかったら次行くからな!!」


「あぁ、分かった」


 私は確信を持てているわけでは無い為、ただ返事をするこしかできなかった。言い訳をするわけじゃないのだが、もう少し待って欲しい所だった。


「………………」


 五分が経過した。


「うぉおおおおい!! っどぉーーーなってんだ!? おい、シャークぅ! 俺ぁもーいくからな!」


 そう言って目にも止まらぬスピードで次の扉の前に立ち、その取手に手をかけた時だった。


「お、おい、あれ!」


 最初に気づいたのはドラケだった。気づけばどこからともなく魔法陣が現れ、そこから異形のモンスターが生み出された。


「……ん、ゾンビ? いや、スライムか?」


 その敵は、スライムの質感をしたゾンビだった。いや、ゾンビの形をしたスライム、といえばいいのか?


 兎に角、誰も見たことがないであろう、モンスターがそこにはいた。


「あ、アッパー、戻ってこい!!」


 アッパーが扉を触った瞬間に、敵が現れた。つまり、最も危険であるのはアッパーだ。


 だが、アッパーの速度なら必ず戻って来られる、私はそう確信していた。


 彼がその場を離れると同時に敵の腕は伸び始めた。ということは、やはりスライムなのだろう。


 逃げ切れる、そう思った瞬間、


 ビチャ


 アッパーの膝裏のあたりに少し、敵の体が触れてしまったようだった。


「だぁあああっ!」


 アッパーはその場に崩れ落ち、絶叫した。

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