第669話 信頼と心外


「おい、おい! 大丈夫か?」


 アッパーが倒れるとすぐさまなにドラケが駆け寄り、アッパーを軽々と持ち上げ、私たちの陣営に運び込んだ。


 こういう所を見ると、日頃あれだけ言い合っているにも関わらず、案外、信頼関係は築けているのだろう。


 喧嘩するほど仲が良いとはまさにこのことだろう。


 だが、その仲の良さとは関係なしに、その症状は思ったよりも深刻なようだ。


 なんと、ウチのレイドパーティが持参してきた毒消しが効かないのだ。


 毒にも強さが異なる、という話があるように、毒消しにも強さ、効力の差があるのだろうか。


 確かに、どんな毒にも対応できる毒消し、の方が存在としては不自然なのかもしれない。


 ただ、毒消しが効かない、という状況は想定外すぎるため、私たちのパーティは愕然とし、恐怖した。


 少し掠っただけで、これだけの威力。まともに触れたらと思うと、易々とは近づけない。


「はぁー! やっっと治ったぜー」


 ん、どうやら思ったよりも効果時間は短いようだ。高威力と引き換えに効果時間を失ったわけだな。


 だが、それでもウチの乏しくなった回復資源を更に削られるというのは不味い。今回のアッパーは事故であるため、仕方がないが、敵の体に触れられないのは変わらない。


「遠距離攻撃部隊を中心に攻める! タンクを含む近接職は相手の攻撃を受けないことだけに集中しろ! 触れられたら死ぬと思え!!」


 私は怒号を放ち、喝を入れた。皆も分かっていることだとは思うが、改めて言葉として刻むことで意識も変わるだろう。


「んなこと分かってらぁー!!」


 その言葉と共に、アッパーが飛び出した。


「……」


 いや、分かっていないだろ。近接職は攻撃ではなく、足止めに徹して欲しいというつもりで言ったんだが。


 しかも、特にアッパーは拳闘師だ。一番敵の毒体に弱いと言える。全回復はしたのだろうが、それでも無謀すぎる。


 まあ、飛び出した以上、私の指示は聞かないのだろう。


 だが、思いの外案外戦えているようだ。手に付けたメリケンサックのようなものと、ガントレットを駆使して、敵の攻撃を装備で受け、着実に反撃を加えていた。


「アッパーが持ちこたえている今がチャンスだ! 遠距離部隊は総攻撃に、バフ部隊はアッパーを全力で援護しろ!!」


 よし、ひとまずはこれで様子見だな。迂闊に近接職を近づけて倒されたくはないからな。


「シャークさん、俺らもいけますよ! 触れられなければ良いんすよね? そんくらいならこのタンクの俺の得意分野じゃないっすか!」


「おい、ちょ、待て!」


 私の呼び声が届くまも無く、彼は行ってしまった。


 そして、善戦する間も無く、敵の一飲みにされてしまった。

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