第658話 宴邪宴


 天魔大戦が幕を閉じた。


 どこかあっけなかった気もするが、勝った、んだよな? これで勝ちでいいんだよな?


 よし、帰ろう。


 ❇︎


「皆、よく頑張った! これは我ら全員の勝利だ! 今日は好きなだけ食って、飲め、宴だ!」


「「「ウォーーー!!!」」」


 こうして見ると、随分と魔王軍も大きくなったもんだな。最初は俺一人で、そこにハーゲンがいる、くらいのもんだったのが、今はこうしてそれらしく軍みたいになってるのだ。


 感慨深いというのはこう言う感情なんだな。自分で手塩にかけて育てて、こうして大戦で勝つっていうのは、気持ちいいというかなんというか、不思議な気分だ。


 でもまあ、皆んな嬉しそうな楽しそうな顔をしてるからいいのか。どいつもコイツもいい顔してるぜ。


 俺がそんなことを玉座に座りながら考えていると、足元にハーゲンがやってきた。


 眠たくなったのだろうか。完全に眠る姿勢で、首だけを上げている。まるで、ナデナデしてくださいと言わんばかりに。


 俺がハーゲンの頭を撫でてやると、とても気持ち良さそうな顔をした。こうしてみると、ハーゲンをこうやってペットみたいにあやしたのは初めてかもしれないな。


 今まではどうしても、移動手段や戦闘力としての側面が強かったからな。


 穏やかだ。非常にゆったりと時が流れていく。これが幸せというものなのだろうか、悪くはない、な。


 あまりにも平穏な時間の中で、俺は次第に瞼が重くなってきていた。


 ❇︎


「はっ!」


 ヤバイヤバイ、ゲームの中でウトウトして寝てしまうってどういうことだよ。退屈な授業じゃないんだし、おかしいだろ。


 因みに、ゲーム内で眠り過ぎると、電気ショックで覚醒させられるらしい。現実があやふやにならない為らしいが真偽の程は知らん。


 って、それよりも、なんだよこれ!!


 地獄絵図、阿鼻叫喚、戦々恐々、せっかく運営さんが用意してくれた、豪華な食べ物、飲み物が無惨に荒らされている。


 そして何よりも異常なのが、皆がそれぞれ殴りあって、大乱闘どころの騒ぎじゃないのだ。一体どういうことだ? 誰かが侵入して混乱魔法でもかけられたのか?


 と思ったのだが、どうやら違ったようだ。


『ご主人様、大変申し訳ございません。最初は飲みの席のよくある口による応酬でした。それが次第にヒートアップし、周りにも伝染し、これほどまでの惨状となってしまいました。皆、本気でやっているわけではないと思うのですが、幾分戦いが好きなもので、、』


 そう説明してくれたのは、どこか哀愁を漂わせているデトだった。戦いが好きって、今宴だぞ、そんな時におっぱじめるなんて一体誰の影響だ?


『そうか、誰が最初か分かるか?』


『申し訳ございません、私が気づいた時にはもう既に.….…』


『そうかそうか。お前が謝る必要はないぞ。むしろしっかりと状況を教えてくれてありがとうな』


『しかし、ご主人様この状況を如何なさいますか?』


『任せろ、俺に考えがある』


「静まれ! 今から、第一回魔王軍序列決定大会を開催する!!

 戦いたいもの、己の強さを誇示したいもの、勝て、目の前の敵に勝つのだ!」


 俺がそういうと、先程とは比べ物にならない程の怒号が湧き上がった。

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