第654話 坊ちゃん


 振り返るとそこには、デトがいた。


「で、デト!?」


 俺の踵を小突いた犯人はどうやらこのデトックス君のようだ。しかし、急に俺の踵をコツンとして何をつたえたいのだろうか。


 はっ、まさかこの狂いに狂った敵プレイヤーたちを自分に任せろ、そう言いたいのか、デト!?


 デトの顔を覗くと、そこには凛々しくて、ダンディーでもある、漢の顔があった。今までのデトからは考えられない顔だ。


 だが、それだけこの大戦に気合を入れて望んでくれているということだろう。上司、主として嬉しい限りだ。


 デトの出陣は大変地味だった。だって、背が低いから誰からも見えないし、何にでも埋もれてしまう。


 ただ、その効果は絶大だった。


 実体の無い凶器、毒が敵のプレイヤーの動きを鈍らせ、確実にその命を蝕んでいく。時間が経てば経つほどその凶器は猛威を振るい、ものの一時間で相手のプレイヤー部隊は壊滅にまで追い込まれた。


 デトがこれほど強いとはな。対多数の時にこそ、毒が生きるんだな。今回はまた新たな発見をさせてもらったぞ。


 しかも、毒が効いているおかげか、アシュラの攻撃も容易く相手を斬り伏せ、相手の数は加速度的に減少していった。これを見ると、最初アシュラの攻撃が効いてなかったのは単純に防御力が上がっていたのか?


 その時はビックリしたが、なんとか一件落着だな。


 相手のプレイヤーも、もう両手両足で数えられるほどしかいなくなり、天使の襲撃も止んでしまった。これにて戦争終了か、そう思った時だった。


「ふっ、ふふふ、ふはははははは! まさか、下界にいるやつでこんなに強い奴がいるなんてね! 天使と人間を湯水のように使ったんだけど、それで倒せないなんて思いもしなかったよー!」


 突如、上空から物凄いイケメンの、天使が舞い降りてきた。


「貴様が天使の長か」


 俺はすぐさま魔王モードをオンにして、威厳たっぷりにして聞いてみた。俺はボスしか相手にできないから、早いところ確認をとっておきたいのだ。


「あららー! ってことは君がこの軍のトップ、魔王ってことかなー? まあ、わざわざ教えることではないけど、教えてあげようか。ボクはガブリエル、天使の長ではないけど、今回の戦の責任を任されているんだよー!」


 イケメン天使は空から俺を見下ろし、そういった。


 なんだ、天使の長ではないのか。まあ、そうかわざわざ戦争に王様はやってこないもんな。でもこれで俺の相手が見つかったようだな。


 それにしてもコイツの言葉は軽すぎるよな。今の状況が分かっていないのか? 天使の大半を落とされ、人間プレイヤーもほとんど残ってないんだぞ?


 それとも、まだまだ挽回できるほどの隠し球を持っているというのか?


 これは気合入れていかないとな。俺の初陣にして勝ち星を掴むための戦い、必ずもぎ取ってやる。


「【暗黒魔法】、ダークボール」

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