第650話 魔王の采配


「なぁ、結局お前らどれくらい強くなったんだ?」


「んー、そうだなー……ってお前も同じことしてるんだから胸に手を当ててウィンドウを見ればわかるだろ!」


「そ、そうだな。ってことはお前もか……」


 今、眼前の魚人の二人は自分たちの成長度合いについて論じていた。魔王に強くしてもらえると思っていたのにも関わらず、思いの外、その効果が実感できていないからだろう。


 これについては私も一言物申したい。


 全く同感である、と。


 永遠と、といっても三日弱程度だが、ずっと一階層の水中で戦闘をさせられたのだ。しかも、その恩恵として得られたのは僅かな逃亡系スキルや、危機察知系スキルだ。


 割に合わないどころの話じゃない、暴利だ。


 もっと、直接的に強くしてくれることを望んでいるのに、魔王にしては堅実で地味な方法だったのだ。


 これは、もしかしたら魔王の元にいても、俺が望む結果は得られないかもしれない。そう思った時だった。


 突如、目の前に大勢のプレイヤー達が現れた。その数およそ千を優に超えているのではなかろうかというほど。


 これは魔王への愚痴を考える暇はなさそうだな。だが、もし死んだ場合は精一杯愚痴を考えてやろう。考えるだけで決して口に出したりはしないがな。


「とうとう俺らの出番だな!」


 と、やる気全開の魚人A。


「俺たちには魔王様もついてんだ、回復もしてくれるってんだから全力でいくぞ!」


 と、こちらもやる気に極振りの魚人B、しっかりサムズアップも忘れていない。これがキャラ付けなのか、ただの癖なのか非常に気になるところだ。


「おっし、」


 そして俺は、やる気十分だ。魚人の二人のせいで全く気合いが入っていないように見えるが、決してそんなことはない。相対的な問題だ。そしてやる気なんて他人と比べるもんでもないだろう。


 唯一の魔王陣営のプレイヤー三人は同時に飛び出した。


 そして、飛び出し、プレイヤーたちを殴りつけた瞬間に魔王の意図を理解した。


 まず、第一に体が物凄く軽いのだ。常に水中での行動を強いられていたため、この陸での戦闘が物凄く楽に行えている。


 そして、精神面だ。水中でサメの群れをずっと相手にしていため、一対多数の構図に体が自然と慣れており、抵抗感も全く感じないのだ。自然と一対一に持っていく癖がついており、それがとても生きている。


 そして、目の前のプレイヤーと水中のサメでは驚異度が全く違うために、余裕すら持てているのだ。

 

「これが魔王の力……」


 もっと直接的な強化を、などと私はほざいていたが、魔王様はこの戦を見越しての強化だったのだ。それに気がつかず私はなんて浅はかな考えをしていたのだ。


 この大戦、必ずや魔王様に勝利をもたらさねば。


「やべ、ダメージ食らっちった。回復してもらわなきゃ」


 魚人の二人は、その特性を生かして試練及び訓練を乗り切っていたため、そこまで恩恵を感じていない様子であった。

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