第643話 感謝と不味い予感
「お前見た目とは違って結構やる奴なんだな! そりゃ魚人じゃないくせに一階層を突破できるわけだ! あっはっはー!」
一緒に魔王軍に参加することができた魚人から、とても親しげに話しかけられ、背中をバンバンと叩かれた。
中身は良い人なのだろうが、声が大きくてうるさいし、背中が濡れるから叩くのもやめてほしい。
「いやーそうだよなー。お前のおかげで俺らまで強くしてもらえるなんて、万々歳だよ。ほんとありがとな!」
この人も中身は好青年なのかもしれない。ただ、その魚顔でサムズアップはやめていただきたい。
必死に笑いを堪えているこちらの身にもなってほしいものだ。
「気にする必要はない。俺は自分の為に提言したまでだ。俺が自己中な奴だと魔王に思われたくなかったから私たち、と言っただけだ。だから礼もする必要は特にない」
「うんうん、お前はあまり人に感謝されることがなかったんだろう? だが大丈夫だ、俺らはお前が良い奴だってもう知ってるからな。これから三人だけだけど、一緒に魔王軍で頑張ろうな!」
うん、だから背中をポンポンするのもやめてほしい。それでも俺の背中はしっかり濡れるのだ。
それにトーンダウンしてもまだ声が大きい。慰めるなら慰めるなりの声量でお願いしたい。
あと、別に俺は誰からも感謝されなかった過去があるわけじゃない。ただ、事実を述べただけだ。
「そうだぞ、同じ軍の仲間なんだ、気楽に仲良く行こうぜ!」
いや、だからそのサムズアップをやめてほしいのだ。顔と言動がチグハグすぎて困る。
「ふぅー」
これから先がかなり思いやられるが、自分が選んだ道だ。ここで頑張って必ず大成してやる。
そう、俺は魔王軍すら踏み台に高く飛躍してやるのだ。だから、馴れ合うつもりも、気楽に行くつもりもない。
強く、ただ強くなるだけだ。
「それにしてもまた二階層に来いってことは、二階層に何かあったのか? さっきはすぐ転移されたから何があるか特にわからなかったんだが」
「どうだろうな、俺が一番先に着いて少し待ってたけど、特に何もないように見えたぜ? もしかして魔王様か、別の誰かが待ってて、そこで何かしてくれるんじゃねーのか?」
「いや、魔王様がしてくれるんならわざわざこんな周りくどいことはせずにその場でできるだろ、ってことは二階層に待つ誰かが俺たちを強くしてくれるってことじゃないか?」
「なるほど、そういうことか! ならとっとと向かうとするか!」
この二人は良い人であると同時に頭の中はお花畑なのだろうか?
もしそうなら、直接転移させれば済むことだ。わざわざ一層から二層に行けと指示する必要はないはずだ。
魔王様に限って転移できないということはないだろうからな。
ただ、転移先が魔王城の手前か玉座の間しか選択できない仕様ならそうかもしれない。たが、そんなことをする必要性がそれほど考えられないんだよな。
ということはやはり一層から二層に向かう間に何かあるということだ。
そして、何もない状態にも関わらず、死に体でなんとか運良く二層に辿り着けた俺からすると、
かなり不味い。
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