第618話 化けの皮


 俺が探知スキル、叡智啓蒙を使ってみると、どうぞここに来てくださいと言わんばかりの反応が一つだけあった。


 王城だからと油断しているのか、はたまた悪魔を討とうとした者を誘う罠なのか。


 まぁ、どちらにせよ行かないという選択肢は俺にはない。行った方が確実に何かしらの情報は手に入るだろうからな。


 というわけで俺はその反応があった地点に最短距離で向かった。


 ❇︎


 コンコン


「すみませーん」


 その部屋の扉を開けると、そこには一人の男性、人間換算でいうとだいたい三十代くらいの男がいた。


 無精髭を生やしてメガネをかけた、いかにも大臣、といった容貌だ。こんなインテリ臭い男がまさかの悪魔なのか?


「む、なんだお前は。ここは関係者しか入って来れぬ場所だぞ? それに、扉を開けて良いと許可を出した覚えはない。今すぐ立ち去れ」


 あれ、意外と優しいというか、甘いというか。城の中に怪しい奴がいる時点で、捕らえてもいいとは思うんだが。


 でもまあ、門番がいるから逆に城の中に入ってしまえばその人物に対する警戒は薄れるのだろうか?


 こちらとしては好都合だな。


「これは大変失礼いたしました。私は王様からの命を受けて参上した者でございます」


「なにっ!?」


 うん、嘘はついてない。魔王の命を受けてやってきた魔王だ。どこにもおかしな点はない。


「そ、それで、陛下はなんと……?」


 あ、王様のこと陛下っていうのか。危ない危ない、こういった些細な言葉遣いから気をつけないとな。


 コイツが本当に賢かったらバレていたかもだからな。


「はい、怪しき者を討て、と」


「なっ……!? そ、それはどういうことっ!」


「【雨叢雲剣】」


 ジャギンッ!!


 おー。コレは確実にもらったと思ったんだけどなー。俺の不意打ちによる相手の首筋への攻撃は間一髪の所で防がれてしまった、およそ人間の皮膚とは思えない、黒く、堅く、禍々しい、その腕で。


 やっぱりコイツが悪魔で合ってたか。正直、違かったら、罠だったらどうしようかと思っていたのだが、合ってて良かった。


 もし、違かったら俺、ただの人殺しだからな。よし、一旦距離を取ろう。


「き、貴様ッ! いつから私が悪魔であると気づいていたのだ?」


「……」


「いつから私が「【不動之刀】」ぬぉっ!」


 ジャギンッ!


 あー、やっぱり溜めが足りなかったか。もうちょっと我慢すべきだったな。相手の発言を狙って攻撃したのにも関わらず、防がれてしまった。


「貴様ッ、人の話も聞けんのか! こうなったら私も本気を出すしかないようだな! 真の姿を見せてやる。ハァア「【斬法十四手】」ちょ」


 キンキンキンキンキン!


 コイツ、これも防いで来やがった。これは気を引き締めないとだな。


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