第613話 長所と課題


『そこだっ! 全力ローキック!』


 俺は、数ある反応の中から、その中でも大きい反応に目掛けて全力のローキックをした。


 だが、そこにいたのは、俺が思いっきり蹴ったのは、アスカトルではなかった。


「あれ?」


『キシャーッ!』


 そして、俺が困惑した一瞬の隙を狙って、大本命は現れた。今の俺の体勢は、足を完全に振り切った状態、ここから回避行動を取るのは難しい。一番完璧なタイミングのようだな。


 でも、俺だってそう簡単には負けてあげられない。魔王としての意地があるのだ。俺は瞬時にアスカトルの方に顔を向けた。そして、


「【麻痺の魔眼】!」


 動いているものを止めるには、慣性が邪魔をして、結構至難の技になってしまう。しかし、一瞬、それこそ俺が体勢を復帰し、反撃するだけの時間だけが必要となれば、完全に動きを止める必要はない。


 少しだけ、その動きに空白を作るだけで良いのだ。


 このスキル、麻痺の魔眼はアスカトルからもらったものだ。こうして魔王は色々背負っていく運命にあるのだろうな。ま、だからこそ、負けられないんだがな。


「はっ!」


 今回もアシュラ同様に顔面への寸止めで試合が終了した。


『お疲れ様、大丈夫かアスカトル?』


『ありがとう、ございます、キシャ』


 俺がアスカトルの腕を引っ張り、立たせてあげた。その時のアスカの表情はとても清々しいものだった。


『何か、お言葉はありますでしょうか、キシャ』


『んー、そうだなー。戦術的なことに関してはとてもよく出来ていたと思う。俺もまんまと騙されてしまっていたからな。だからそれは今後も長所として伸ばしていってほしい』


『は、かしこまりました、キシャ』


『あとは、その作戦を使ってもなお、相手を倒せなかった時の想定、つまり、最悪の想定をしておくんだな。自分が思いつく最悪の想定というのを常に頭に入れておくことで、もし、そうなった場合は即座に退却を、そうでなければまだ戦う、っていうのを徹底した方がいいかもしれないな』


『な、なるほど……キシャ』

『お前は賢いからな、必ずできるはずだ。期待しているぞ?』


『は、ありがたきお言葉、身に余る光栄です。キシャ』


『よし! じゃあ、ひとまずこれで模擬戦は終わりだ! 少し用ができたから後は各自で頼む! あと、俺と模擬戦したい奴は後で受けるから、それまで待ってろ!』


 そう、何も課題が見つかるのは、俺の従魔たちだけではない。俺にも解決すべき課題が見つかった。今からそれをしにいく。魔王城ではできないからな。


 あ、さっきの言葉、魔王口調になってなかった気がする。気を抜くとすぐに普通の喋り口調になっちゃうんだよなー。気をつけなければ。

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