第611話 上司として
『大丈夫か、アシュラ?』
『はっ!』
どうやら気絶していたらしい。寸止めで気絶するって何事なのだろうか。というよりも、これでもし本当に殴っていたら大惨事だったな。
咄嗟に寸止めをした数秒前の俺、ナイスだな。
『ご主人様、何か助言をいただけないでしょうか。改善点だらけだと思いますので、まだまだ精進していきたい所存でございます』
向上心があるって素晴らしいな。俺が仮にアシュラ並みの力を手に入れて、魔王軍幹部のポジションにいたら、努力するのをやめてしまうだろう。
まあ、今の俺は魔王っていう立場だから配下にみっともない姿を見せない為、あとは単純に強くなりたいから頑張るんだけどな。
んー、アドバイス、改善点かー。でも、ぶっちゃけると相手が俺じゃなかったらほとんどの敵に勝てるだろうしなー。そのレベルだと言うことなんてそんなないんだが。
でもまあ、せっかくなら俺くらいの相手と戦う目線でアドバイスされた方が嬉しいか。
『そうだな。まずは、攻撃の仕方が少し単調すぎるかな、と思う。常に三つの拳が飛んでくるのは脅威でしかないが、慣れてしまえばそれまでだ。だから、それだけに頼るんじゃなくて、緩急をつけたり、フェイントを織り交ぜたりしながら、相手を苦しめていくのが良いと思うぞ』
『ははっ、ありがたきお言葉……』
『あ、そうだ。もし、それを練習するなら、縛りを儲けてみたらどうだ?三つの腕を使ったら大抵の相手には勝ててしまうだろうから、二つを封印して、一対の腕だけで相手と勝負するんだ。そうすれば自然と駆け引きが身につくはずだ』
『なるほど! 直ぐに実行いたします』
『スカル、ボーン相手をしてやってくれ。駆け引きと言う点では魔王軍ではお前らの右に出るやつはいないだろうからな。先輩として指導してあげてくれ』
『『かしこまりました』』
俺を含めて、魔王軍で一番そういった戦いが上手いのがスカルボーンだろうな。転双の拳という特殊な装備を使い、二人で連携し翻弄する戦い方はなかなかに手強い。
『アシュラとの稽古が終わったら、俺とも対戦してくれるか?』
『『はいっ! 喜んで』』
え、なんか嬉しそうだな。この状況って上司から今度飲みに行きましょうって言われているみたいなもんだろ? 俺自身、その経験はないが言われたら断ってしまう自信はあるぞ?
もしかして、スカルとボーンも俺と戦いたかったのか?ま、まあ良いか。それは戦ってみればわかるだろう。
それよりもせっかくの機会だし、他の従魔ともやってみたいな。普段だと手合わせしようとすら思わないからな。
『じゃあ、他に誰か私と戦いたい者はいるか?』
『では、私が行きましょう。ご主人様、どうかお手柔らかに、キシャ』
そう言って、前に出てきたのは……アスカトルだった。
いや、語尾で分かるって? 気づいていない振りをするのもまた上司の役目というものなのだよ。
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