第608話 久しぶりの感覚
『ふっ、はっ!』
「……」
俺は今、アシュラの六本の腕から繰り出される猛攻をひたすら避け続けていた。
はっきり言って、いつでも倒そうと思えば倒すことはできる、そういうスキルを使えばな。だが、その中には殺してしまうものもあるし、それだとアシュラの訓練にはならないだろう。
アシュラは体術がメインなのだから、その体術で上回りたいのだ。
だって、ここで俺が急に爆虐魔法とか使っても興醒めじゃないか?
だが、これで俺が負けてしまったら手加減して負けた、という一番ダサい上にアシュラに申し訳がつかなくなってしまう。
つまり、今俺は、攻めあぐねているのだ。
今、分割思考の俺にステータスを覗いてもらっているのだが、ちょうどいいスキルが見当たらない。一撃必殺のものであったり、サポート系であったりと、手合わせに向いているものがないのだ。
使えそうなのはあるっちゃあるが、使い所は限られてくる。
ふぅ、ならばここで気合を入れないといけないのだろう。目の前の巨漢とも言えるアシュラに単純な体術のみで上回る。これを成し遂げてこその魔王だろう。頑張らねば。
「【叡智啓蒙】」
スキルを発動し、感覚を徐々に研ぎ澄ませていく。こんなにも集中しようとしたのはいつぶりだろうか、本気で戦おうとすること自体久しぶりな気がする。
四方八方から迫りくる拳に対して、最小限の動きだけで避けていく。布一枚分くらいで避けているから、紙一重ならぬ、布一重だな。
……集中しよう。こういうところは俺のよくないところだな。
全てギリギリで交わしていくことによって、体力の余裕が生まれ、相手の攻撃そのものに意識を向けることができる。すると、段々とアシュラの攻撃の癖というものが見えてきた。
それは、基本的に一度の攻撃では三本の腕しか使用していないということだ。
確かに、自分の身になって考えてみれば当然のことだが、殴るときは必ず二本のうち一本しか使用しないのは当たり前だ。両手を突き出して殴っている人なんて見たことがない。
そして、ここからが本題なのだが、その三本というのが全て同じサイドなのだ。どれかが右腕で攻撃するときは残りの二本も右腕で、その逆も然り、というわけだ。
そして、右のあとは必ず左を使って攻撃してくるのだ。
これが分かるだけで、どこから飛んでくるか分からない六拳の波状攻撃から、ある程度予想がつく三つの拳による攻撃に早変わりだ。
そして、ある程度予想がつけば、こちらのもんだ。
「【パリィ】」
三つの拳による連続攻撃をを己の拳で弾く。これで、アシュラは一瞬ではあるが、動きを止めてしまう。
そして、俺にはその刹那で十分だ。
「くらえ、全力正拳突き!」
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※注)全力正拳突きはスキルではありません。
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