第583話 過去と未来の話


 やってしまった……


 まさか、まさか、まさか俺がよりによって第一階層にいる時に限って挑戦者がくるなんて……そんなこと一体、誰が考えるだろうか。


 いやまあ、一階層だからそりゃまあ急にくることは当たり前なのだろう。でもさ、でもさ、よりによってこの時間にくるなよー!


 せめて、せめて鬼ごっこしている最中に来てくれればよかったものを、俺が見つかった瞬間に、隠遁を解除した瞬間にくるとか悪意しかないだろ!


 それに、これは俺の落ち度だが、相手を厭離穢土で倒してしまった。これにより、プレイヤー側に魔王が即死の攻撃手段を持っていることがバレてしまった。


 まあ、そりゃ魔王だから持っているだろう、ってなるかもしれないが、持っているかどうか分からない、という状態が一番望ましいのだ。持っていることが確定してしまったら、即死を使った時にすぐに原因を特定され、動揺を与えられない。


 いずれバレることであるかもしれないが、まだ最上階にも到達していない、なんなら最初の階でバレてんだぞ? しっかりと先兵の役目を果たされてしまったじゃないか……


「ふぅ」


 切り替えよう。もう、過ぎたことにあーだこーだ言っても仕方がない。変えられるのは未来だけだ。


 いや、未来でもないか、俺らが変えらるのは、この瞬間だけだよな。


 だって、過去は絶対に変えられないし、未来は人間が作った幻想でしかない。だって、俺は今しか生きられないからな。


 確かに、明日とか一ヶ月後、とかそういう未来を捉えることができるが、今、この瞬間変えることができるかと言えば、答えは否、だ。


 俺が明日を変えらるのは明日になってからじゃないと無理だ。そして、明日になった時の俺からしたら、明日は今日になっているからな。


 うん、なんかこんがらがってきた。とりあえず、今しかねーってことだ。


 よし、忘れよ。とりあえず現状確認だ。まずは損失は、魔王に即死攻撃があるということが露見したこと。そしてその代償として手に入れた物が。一階層の防衛力の強化だな。


 具体的に言うと、ここの住人が姿が見えない敵に対して強くなり、海馬に至っては、水流感知というスキルまでみにつけた。


 この水流感知とは、水流が感覚的にわかるようだ。まあ有り体に言えば視える、らしい。これは俺も持っていないから欲しくはあるが、せっかく海馬がゲットした物だし、海馬オンリーにしてあげよう。


 こうして損失と利得を見比べてみると圧倒的に利得が勝ってるよな、うん、だから良しとしよう。別に俺の情報がバレたって、俺の階層まで来れなかったら意味ないもんな。


 ん? ってことは、この調子で各階層を強化していくとなると、それをくぐり抜けて俺の元に到達してくる奴は俺よりも強い最強プレイヤーじゃね?


 よし、俺の強化も始めるか。まずは俺自身がこの城をクリアできるかどうかだな。


『全軍に告ぐ! 今から全力で我を迎え撃つのだ!!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る