第580話 先行者利益(別視点)


「ふぅ、ここが魔王城か」


 俺は今、魔王の城の前に立っている。


 魔王、それはこの世界に突如現れた異質な存在だ。前回のイベント、国別対抗戦を荒らしに荒らしまくった者で、何もなかった場所に一瞬にしてこの城を築き上げた者だ。


 正直、魔王の強さは恐ろしい、なんてものじゃなかった。直々に手を下したのは配下だが、それらの全てが強く、プレイヤー達を苦しめた。


 また、最後に人類に宣戦布告した時のあの威厳と言ったらそれはもう、誰もが魔王と認めるほどだったのだ。


 恐らく、今の人類、今のプレイヤーでは到底太刀打ちが出来る相手ではないだろう。しかし、俺にはこの魔王城に挑まなければならない理由がある。


 そう、俺は魔王軍に加わりたいのだ。


 いや、なんだよあのカッコいい姿はよ、無茶苦茶イカしてたぞ? それに配下たちも粒揃いだった。攻撃力もさることながら皆、特性が異なっていて、別々の強さを発揮していたのだ。


 素晴らしい、素晴らしすぎる! 俺もあの軍団に入ることができたら、と思うと、もう涎が止まらない。


 それに、悪役ムーブを出来るなんて堪らなすぎるだろう、それだけでご飯が進むほどだ。


 だが、こんな怪しいプレイヤーが急に突撃して、魔王軍に入れてくださいと言って、入れてくれるわけはない。


 だが、魔王軍もそんなアホじゃない。だって何よりそんなことをする必要がないからな。戦力は十分に足りているし、仮に足りていなくても、こんな弱そうな人間を味方に加える理由はない。


 じゃあ、俺の勝機はどこか、俺は考えたのだ。圧倒的な力を持ち、どこにも死角が無さそうな魔王相手に対して、俺が優位に立てるカードはないかと。


 そして、俺は閃いたのだ。


 それは、俺がプレイヤーだということだ。


 いくら強い魔王と言ってもそれは造られた存在だ。プレイヤーの概念もどこまで教えられているのかはわからないが、少なくともそこに生きている俺よりも情報を持っている、ということはないだろう。


 そう、そこが狙い目なのだ。いくら死んでも蘇る存在、短期間で強くなる存在、数多の可能性を秘めている存在。


 そんなプレイヤーのことを少しでも脅威に思ってくれれば、俺が対応する、ということだ。


 簡単にいうと、スパイみたいなもんだな。誤情報を流したり、妨害したり、そんな立ち回りをして常に魔王様を優位に立たせるのだ。


 プレイヤーは相手をNPCだと高を括っているだろう。まさか相手にプレイヤーが裏切っているとは思うまい。そこに漬け込むのだ。


 そして、こういうのは大体、先行者利益がハンパない。だから今すぐ行くべきなのだ。


 では、いざ行こう。


 俺は扉を開けた、そしてその先には、


「フゴッ」





——————————————————

堅苦しい挨拶は苦手だぜ全く……


今年も死にたがり及びお茶目な主人公とその仲間達をよろしくお願いします!!

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