第581話 先兵
「お、」
遂に、魔王城建設以来、初めてのお客さんがやって来た。
どうやら一人での挑戦のようだ。これは舐めプという奴だろうか、それともパーティやクランの先兵隊として一人で行かされたのだろうか。
まあ、どちらにせよ一人ではそんな大した情報は得られるまい。
……まあ、無茶苦茶強くて海馬が瞬殺されたら分かんねーけど。だ、大丈夫だよな? 海馬を信じよう、うん。
「ん?」
あれ、記念すべき一人目の挑戦者の姿が見当たらない。どこに行ったんだ? まさか、これは俺みたいに隠遁を使っているというのか!?
確かに俺が使えるんだ、相手が使えない道理はない。
だが、もしそうだとすればかなり不味い。隠遁の有用性は俺も痛いほどよく知っている。便利なスキルだとは思っていたのだが、敵に使われるとこれほどまでに厄介とは……
クソ、こうはしてられない。至急海馬に連絡をしなければ。
『海馬、聞こえるか、海馬、海馬ぁあ!!』
『は、聞こえております』
『おい、さっき挑戦者が来ただろう? そいつの姿が消えた、恐らく俺と同じ隠遁のようなスキルを使っているのだろう。もし、隠遁だとするのならば、最初の一撃を食らうまでは姿は見えないはずだ。流石にその一撃でやられるとは思えないが、最大限の警戒をしろ、死んでも死ぬんじゃねーぞ!』
『は、承知しました』
気づけば思いの外、海馬に対して捲し立ててしまっていた。自分の従魔が危機に晒されると俺はこんな風になってしまうんだな。
魔王らしくはないとは思うが、仕方あるまい。従魔が死ぬとどうなるかが分からない以上、下手はできない。
だが、これで改めて確認したな。魔王、ひいては魔王軍とは常に死ととなり合わせであり、それは未来永劫、いや、この世界が続く限り終わることのない、ということなのだ。
決して死なせられない、死なせたくない配下を抱えながら、止むことのないプレイヤーの襲撃に怯え、それでも奮闘するしかないのだ。
やるしかない。この身を魔に堕としたのだ。これくらいは覚悟の上だろう。
まあ、正直、クソ軽いノリで魔王になっちゃったことも事実なんだけどな。だけど、ここからちゃんと名実共に魔王になれるように頑張らないとな。
だからこそ、この初の防衛戦をしっかりと白星で終えたいのだが……
「クソッ!」
まだ相手からの反応がない。第一回層の情報を入念に探られているのだろうか。そうなってくると、この先兵はよくてもその後の大波に耐えられるか分からないぞ?
プレイヤーは死んでも情報を持ち帰れるのだ。つまり、見られた時点で負け、もしくは、半永久的に拘束するかだが、それも自害されれば終わりだ。
不味い、これは初回からやっちまったか?
『ご主人様、配下からの伝達がありました。どうやら、どうも、ゴブリンシャークが、敵の入って来る瞬間に、その者が溺死したのを見たというのですか……』
『は?』
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