第558話 福神漬け


 俺は今、地下に居た。そして、スクリーン越しにゾムの活躍を見ていた。


 今回のステージの仕様上、今までみたいに遠く離れた位置に洞窟を設置して、というのができなかったのだろう。こんな感じでの参戦となっていた。


 まあ、少し優遇されすぎている気もしなくもないが、一応ここから出ると戻ってこれないらしく、俺は試合開始からずっとここにいる。


 それにしてもこのスクリーンはありがたいのだが、モンスターを向かわせて自分はここで観戦しろと言わんばかりの配置で、それ通りにするのは少し気が引けた。


 でも、まあ今回の為にゾムを頑張って強化したのだから、出陣させない手はない。このステージならゾムとの特性も良いだろうし、結構いい感じに仕事が出来るんじゃなかろうか。


 ❇︎


 ……なんて、ことを思っていた時期もありました。


 え、ゾム君、君なんてことしてるの? 一応、君はアイスとはまた違ったキャラのペット枠なんだけど? スライムの可愛さとゾンビ並みの低知能の組み合わせで結構可愛さポイント狙えると思ってたのに、


「全ッ然ッ可愛くない!」


 は? なんだよそれ、人を飲み込んで殺すのまでは知ってたからよしとしよう。でも、そのリソースを使って自分の分体を生成して、それをその人間に偽装させて同士討ちさせるって、悪魔の所業だろ! 一体そんなこと誰から教わったんだ……


 確かに、ゾムは目立つからと思って、デトに擬態スキルを教えさせたのは俺だが、別にこんなことをさせる為じゃない!


 迷宮ステージと相まって、えげつない効果を発揮してるんだが……ただでさえ相手との遭遇を警戒しているプレイヤーが、突然現れた味方っぽい奴を瞬時に第三勢力と判断できる訳ねーだろ!


 そんなこんなでこの試合はゾムの一人勝ちに終わった。端から攻め合うという構造上、敵どうしがかち合うよりも早くゾムの魔の手が忍び寄ったことが一番の勝因だろう。


 だがそれでも全滅ではなかったようだ。所々で本来想定されていたような戦いも起こっていた。まあ、それでも全体の一割にも満たない程度だがな。


 ある意味それで倒されていたプレイヤーが一番幸せだったのだろう。平和的だ、うん。


 しかし、ちょっとした問題がこの試合を通して発生してしまった。それは、圧倒的やり過ぎた感、だ。


 このイベントはあくまで運営が企画したもので、それを同じく運営からの差し金とはいえ、あくまでも第三勢力の俺が横槍をいれ過ぎるのは良くないだろう。


 イベントのスパイスであるはずの俺が、そのイベントを食べてしまうなんてことはあってはならないはずだ。


 料理で例えるとそうだな……カレーライスにアクセントをつけるための福神漬けが侵食に侵食を重ねてカレーのルーとの比率が逆転し、福神漬け丼カレー風味となってしまったものを誰が食べたくなるだろうか。


 誰もいないだろう、つまり俺がしてしまっているということはそういうことだ。まあ、確かに全滅させてやろうという気がなくもなかったが、冷静になると少しやりすぎてしまったと感じるし、運営に申し訳なさが出てきた。


 だって俺は福神漬けなんだもん、コック側からすると福神漬けにしゃしゃられるのは俺だって嫌だ。だからこそ、次は自重します、はい。


 ピロン

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る