第557話 ヒトカゲ(別視点)


「おい、そこ罠があるぞ!」


「なっ……!? ふぅ、さんきゅ」


 俺らは今、二人三脚でこの迷路を攻略していた。


 俺ら以外は人影が見当たらず、勝っているか負けているかも分からない状況の中、ただただ死なないように、前へ前へ進んでいた。


 極ロードの言う通り、罠も結構な数仕掛けてあり、罠探知を持っていない極ロードがいなけりゃ、もう何度死んでいたことか。今回ばかりは感謝しないとな。


「なぁロード、モンスターどころか人影一つ見えないんだが」


「まあまあそういうな、次人影が見えた時は戦いの時だろうから、集中を切らすなよ。曲がり角でバッタリとかも全然あり得るからな」


「でもまあ味方の可能性もあるんだろ?」


「そうだが、敵と思ってた方がいいだろう。逆だと死ぬからな」


「おう、分かった」


 また、気合を入れ直そう、そう思った時だった。足元に暗い影が差した。


「……っ!?」


 俺は瞬時に極ロードの元に下がり、武器を構えて警戒した。まずは色の確認だ、何色だ、何色だ、何色だ?


「あ、か……?」


 俺らも赤だよな? ってことは味方だよな? 味方、味方だ!


「お、おい! 味方だ、日本人だ!」


 極ロード以外の初めての味方の登場にどうしようもなく嬉しくなって、色々聞こうと思い、話かけようと近づこうとした時だった。


「おい、危ない、近づくな!」


 ドンっ! あろうことか極ロードが俺を突き飛ばしたのだ。しかも、味方であるはずの人影を警戒するような言葉を投げかけて。


「なんだよ、この人は味方だぞ? この鎧を見ればわかるだろ? 俺らと同じ赤じゃないか!」


「バカ! 普通に考えて、普通の人だったらお前みたいな反応になるだろう? この人はそうじゃなかった、気持ち悪いくらい無反応だった。それに、目をよく見てみろ、濁ってる、これは人じゃない、モンスターだ」


 極ロードは俺に向き直ってそう説明してきた。


「あっ、おい、後ろ!」


 そう、俺を突き飛ばした後に、俺に説明する為に、自分がモンスターだと暴いた存在に背を向けていたのだ。


 いかに極ロードがこの怪しい存在を見抜いたといえど、やはり人の形をしている以上、油断したのだろうか、そして、その一瞬が命とりとなった。


「ん、どうし


 それが極ロードの最後の言葉だった。


 グニャリ、そんな音が聞こえてきそうな音だった。数瞬前までは人だと思っていた存在がただの化け物と化し、自分のライバルを飲み込んだのだ。


 しかも、俺を助けてくれようとした親友が、だ。これは友として仇を取る必要がある。必ず勝って、アイツを助けるんだ!


「おい、極ロード! 気をしっかり保て! お前がそんな奴に負けていいと思ってるのか! お前に勝つのはこの俺だけだ! 俺が助けるまでくたばるんじゃねーぞ!」


 俺は思いの丈をぶつけて、ハンマーで叩きつけた。しかし、相手はその攻撃にまったく反応をしなかった。


「くそ、物理攻撃はきかねーってか、なら」


 俺は詠唱を始めた。高火力の魔法をぶっ放すんだ。長い詠唱時間がいるが、俺なら唱えながらも避けられるからな。


 そう思って詠唱を始めたんだが、相手は全く攻撃してくる様子がない。それどころかほとんど動かないのだ。


 これはチャンスだ、そう思い魔法を放とうとした時、は蠢き始めた。


 気持ち悪く、グニャグニャと蠢き、新たな自分を吐き出すかのように、を生み出した。



 それは、極ロードだった。



 そこで俺の記憶は途絶えたのだった。

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