第540話 臨界点(別視点)


「おい! そっち攻撃がくるぞ、噛みつきだ!」


「分かってラァ!」


 ふぅ、俺はドラケ、大剣使いだ。今は俺らイベントの決勝戦に残った組で死者の国の最後の砦である、死者の城のラスボス、地獄の番犬ケルベロスと戦っている。


 相手は多種多様な攻撃をしてきてとても連携なしには勝てない相手だ。今も、味方の拳闘師アッパーに声をかけたところだ。


 相手は三つの首があり、それぞれが独立しているように攻撃してくる。首と攻撃パターンを覚えればなんとかなるのだが、それでもそれを咄嗟に判断するのは至難の技だ。


 それに三つ首の中、一つの顔だけまだ何もしてない奴がいるんだ。そいつがいつ参戦してくるのか不気味でしょうがない。二つでも大変なのに、三つなんて考えたくもないくらいだ。


 俺は頭を使わずに敵をぶった斬る、ただそれだけの為にこの世界に来たんだが、それだけだとダメだと、あいつに負けてから思い知ることになった。ちゃんと勝つ術を身につけ、勝つ努力をしなければならないとな。


 だが、最近、どうも強くなれている実感がねぇ。だからこうして他の奴らと一緒にこんなところまで来ているんだが、それでもダメだ。何かもっと一皮向けるような何かがねぇと。


「おい、ドラケ氏!」


 そのシャークの声が聞こえてきた時にはもう、遅かった。


 突如、俺の足下から何本もの針が飛び出してきたのだ。しかもその針の根本は俺の腕よりも太い。そんな針が生えてくる地面の上にいた俺は、有無を言わさず串刺し状態にされていた。


 体の各所を針に貫かれ、状態異常:疫病、というのも発症している。どうやら俺はもうこの戦いには加われないようだ。寒気がするし、体が手足の先からボロボロになっていく感覚もする。


 それでも、それでも俺はまだ戦いたかった。こんな痛みに挫けていては、到底あの男に勝てるわけがない、そんな風にも思った。


 あの男に復讐を望む奴らはいっぱいいる。さっきのアッパーだってそうだ、俺よりもリベンジに燃えているかもしれない。


 だが、俺だって悔しいんだ、自分が誇りに思っていた、いやそんな格好良いもんじゃねーか。少し傲慢になるほどの自信を持っていた俺の剣が真っ向から叩き折られたんだ。悔しくないわけがない。


 だが、そんなこと頭で考えながらも、悔しさを感じながらも俺は何をしている? 不注意で相手の攻撃を食らい、今にも戦線離脱しようとしているのだ。今、この瞬間にもあの男は強くなっているかもしれないというのに。


 まだ死にたくない、生きて、生きて、戦って、戦って、勝って、勝って、強くなるんだ。それまでは死んでなんかいられない。俺だって、俺だって、漢なんだよ!


「はぁあああああああ!!!!」


 死ぬな死ぬな死ぬな死ぬな死ぬな死ぬな死ぬな死ぬな死ぬな死ぬな死ぬな死ぬなぁああああ!!


 死んでも生きるんだ、俺! 生きて、勝って、あいつを倒すんだっ!





ーーー称号《生への執着》を獲得しました。


《生への執着》‥死にたくない、という気持ちが臨界点を迎える。スキル【九死一生】を取得する。また、一定の確率で死を免れることがある。



 気づくと俺は、再び立っていた。これで俺はまた戦える。今度は戦って、勝つんだ。

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