第538話 根性論


『お、お主……』


 どうやら海馬は俺がクラーケンを一刀両断にしたことに凄く驚いていたようだ。


『どうしたんだ? 何にそんな驚いてるんだ? 俺の従魔はみんな一人でクラーケンくらい倒せるぞ?』


 まあ、ペレはちょっと無理かもしれないが、地上ならば余裕だろう。うん、だから嘘ではない。


『な、そ、それは本当か!?』


『うん、だからお前にもこれくらいは余裕でできるようにはなってもらうぞ』


『は? 無理無理無理無理、無理じゃ! 我をなんだと思っているのじゃ!』


『ん? お前はシーホースドラゴンじゃねーのか? 誉高きシーホードラゴンならヨユーだろ?』


『当たり前だ! それにシーホーではなく、シーホースだ! 我に不可能はない!』


❇︎


 無理でした。まあ、そりゃ無理だろうな。俺の予想ではこのタツノオトシゴ、隠しボスキャラではなく、隠し経験値キャラだと踏んでいる。だから強くはないけど倒した時に有効活用されるんだろうな。


 ま、まあ皆から殺される運命ということであるなら、俺くらいコイツを救ってあげるのも悪くはないだろう。そう考えると、見つけたら必ず殺される運命にあるっていうのも不憫だな。


 あの伝説の銀色のスライムもそんな気持ちだったんだろうか。こうしてみると、海馬の態度がでかいのも可愛らしく思えてくるな。


 だが、今となっては余命もあり、しっかりと元気に終身雇用の会社に雇われたんだ。生意気な態度をとっていたら、嫌われるし、上司からボコされる。だから、俺がしっかり上下関係というものを教えていく。


『みっともないな、クラーケンごとき倒せないとはな。まあ、新米だから仕方がない、最初はシーサーペントで様子見をするか。シーサーペントくらいなら倒せるであろう?』


『し、シーサーペント!?』


『なんだ、シーサーペントも倒せないのか? 皆、片手でも倒せると思うぞ?』


 アシュラの場合は何を持って片手とするかは謎だがな。


『な、それほど強いとは……』


『お前は強くなりたくはないのか? ずっとあの神殿で死ぬのを待っているつもりだったのか?』


『む、それは……』


『違うだろ? お前はそんな所で終わるような奴じゃないだろ、お前は世界に羽ばたける逸材なんだ。ここで挫けてどうする。お前の根性を見せろよ!』


『き、貴様……や、やってやろうじゃないか! み、見ておれ、我の素晴らしき勇姿を!』


 無理でした。こいつは無理です。だって、よくよく考えたらいくら根性論唱えた所で、強くなるわけがないし、銀色スライムが竜王を倒せる訳がないもんな。


 うん、もう大人しく強制進化させよ、でも、こいつを何も努力させないまんま強くしたら絶対に調子に乗るだろうなー。もう、その未来しか見えないもんなー。

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