第534話 爺との関係
「お主に教えられるように言われていたのは、この心界支配だけじゃ。その他は特に言われておらんからのう。もう、帰っても良いぞ?」
え? そんな急に終わるのか? それにしても雑な終わり方だな、もっと何かなかったのかよ、送る言葉とか。
「爺さんはこれからどうするんだ? 何かするあてはあんのか?」
ずっとここに囚われて、アレだけの虚無を体現できるようになってしまったんだ。いきなり解放とか言われても何もできないんじゃないか?
「儂か? 儂はこれからもここに居らねばならぬ。第二のお主の存在が現れる時までな」
「そ、そうか……」
俺だっていつくるか分かったもんじゃ無かったんだ。これから先、いつ人がくるかなんて分からない。ましてや来ないことだってあり得る。そんなこと続けられるのか? しかも自分の意思ではなく、邪神によって強制的に、だ。
「辛くないのか?」
別にこの爺さんに情が移ったとかそういうことではない。ただ、もし自分がその立場になったらと思うととても耐えきれそうにない。
「ほっほっほ、心配してくれておるのか? じゃが心配には及ばぬ、儂はそれにすら何も感じておらんのじゃ、虚無とはそういうことだ。お主もいずれわかる時がくるじゃろう」
俺は本能的に分かりたくない、とも思ってしまった。いや、それが分かった時、自分がどうなっているのか想像もつかないし、少し怖さもある。
ただ、俺はまだ心界支配すら発動できていないのだ。あのレベルの技を行使できるようになった頃には確実に今の俺とは何かが違うのだろう。それが良い変化ならばいいが……
「さあ、どうだかな。それよりも爺さん、俺と契約をしないか?」
「契約、じゃと?」
「そうだ、契約だ。俺が爺さんを好きな時に呼び出せるというものだ。貴方は今の俺に比べて格段に強い、いや、戦闘面ではなく負の感情の強さで、という意味だ。それをここに放っておくのは少し勿体なさすぎる」
「なんじゃ、つまりこの老ぼれを戦闘に駆り出そうと言っているのか?」
「んー、半分正解だな。何も別に俺と一緒についてこい、って言っているわけじゃないんだ、俺が手を貸して欲しい時に、俺の力になって欲しいってだけだ」
「お主の力に……」
「そうだ、邪神は混沌がお望みなんだろ? なら爺さんもそれに加わることくらい許してくれるだろう。まあ、許してくれなかったら俺がぶちのめしに行くだけだ」
まあ、本当にぶちのめせるかどうかは知らない。だが、それはこの爺さんも分かっているだろう。これはただ俺の想いの程度を伝えるための言葉だ。
実際戦うってなったら、死に戻りまくってゾンビアタックしてでも価値をもぎ取りに行くけどな。
「どうだ? ここで暇しているだけよりかは、楽しみもあってもいいんじゃないか?」
「楽しみ、か。そんなこといつ以来考えてこなかったじゃろうか。クックック、面白い。ここまで言われれば乗らぬ方が無粋という物じゃろう。ただ、条件がある。儂を呼ぶときは必ず強くなってからじゃ。自分よりも弱い者の為に力を使う気にはなれんからのう」
確かにそれはいいな。俺も修行に励めるしな。
「分かった、それは約束しよう。では、ライトだ、よろしく頼む」
「ああ、クラーゼじゃ、楽しみにして気長に待っておる」
そうして俺は爺さんと召喚契約を結んだ。
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