第533話 心界支配


「混沌……?」


「そうじゃ、儂らには感情を体現できるほどの力を与え、その対価としてこの世に混沌を望んでいるようじゃ」


「なるほど、つまり人類の敵ということだな?」


「まあ、言ってしまえばそうじゃな」


 メタ的に言うと、人類と言うより、プレイヤーと対立しろってことだよな。まさかゲーム側から悪役を申し込まれるとは思いもしなかったぜ。その為に力を得られるのならばそれも悪くないか。


「どうせ俺に拒否権はないのだろう?」


「邪神から逃げられると思うのならば、逃げたらどうじゃ?」

 

 邪神は逃さない、ってことか。まあ、そもそも俺にはプレイヤーの友達もいないし、何も躊躇する理由がない。


「もちろんやらせて貰うぜ、派手にな」


 悪役ムーブってどうみても楽しそうだからな。俺以外の人が関わってもいいが、もちろん俺が筆頭していきたい。せっかくの機会だしな。


「ほっほっほ、若いのう。楽しみにしておるぞ。儂はもう老ぼれじゃからお主に託すのが役目なのじゃ。じゃからここを出た後はお主一人じゃよ?」


 いや、まあ、ついてこられても困るんだけどな。


「おう、大丈夫だ。それよりもさっきの心界支配? ってのを教えてくれねーのか?」


「ほほほ、焦るでない。心界支配とは己の感情をしっかりと見極めねばならんのじゃ。つまりお主の根底にある感情を知ることができなければ支配はおろか、発動すらままならんじゃろう」


 そうなのか。だが、俺の感情は至ってシンプルだぞ? このゲームを始めた理由でもあるからな。


「俺の感情は絶望、単なる絶望だ。これならいけるか?」


 爺さんの虚無とはまた異なる、ただの絶望、それをイメージして、


「心界支配:絶望!」


 一瞬、この場がねっとりとした何かに包まれた、ような気がした。


「ほぅ、見様見真似でここまでできるのか。お主はやはり邪神に認められただけはあるようじゃの。しかし、それだけではまだ足りぬ。その感情によって、お主が何を感じどう行動したのか、それをイメージする必要があるのじゃ。心界支配というのは、相手にそれを強制体験させるようなものじゃからな。自分がどうなって、相手にどうさせるかをイメージすることが肝心なのじゃ」


 へー、そう言うことなのか。確かに、ざっくりとしたイメージだけだったら、そりゃそもそも技として発動するわけがないもんな。


「まあ、本来は年単位で取得していくものじゃ、そう焦らず、まずはお主し自身と向き合って見ることじゃな」


 年単位でかかるのか、まあプレイヤー補正みたいなのがあって俺らが覚えられるのは少し早まるのだろう。それでも時間はかかるってことなんだろうな。


 だが、俺の場合は雰囲気はもう大体掴めているから、後は具現化するだけだ。


 絶望を感じた後の、死、と言うものをな。


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