第532話 混沌


ーーー職業が〈破戒僧〉に変更されました。


 ……はい?


 破戒僧? なんじゃそりゃ。俺、仙人になってたんだけど、また僧侶にランクダウンか? でも、破戒ってあるから普通の修行僧よりかは強そうだな。でも、全く意味不明だ。


「ほっほっほ、戸惑っておるようじゃの。破戒僧とは言わば理を破る者じゃ。其方ももう、引き返せぬ所まで来てしまったということじゃ、ほっほっほ」


 いや、ほっほっほじゃねーよ。別に職業が変わったことはいいんだが、もう少し説明してほしい。分かってたなら尚更だ。


「破戒僧は他の仙人及び、修行僧と敵対関係になります。その為、技の伝授は使用不可となります。しかし、仙人の技を見ることで技の奪取が可能になりました」


 うぉ、久しぶりだな天の声さん。天の声さんが代わりに説明してくれたようだ。でも、役に立つ情報ではあるが俺が今知りたかった内容ではないな。


「なぁ、あんたも破戒僧なんだろ。破戒僧はなんの為に存在するんだ?」


 修行僧はただひたすらに高みを目指して自身の強化に望むものだと思っていた。つまり、自分の意識は自分に向いている。


 じゃあ、破戒僧はどこにその意識が向いているんだ? 自身が強くなること、が修行僧と仙人の理だとしたらそれを破ること、つまり他人を弱くして自分は停滞することが目的なのか?


「ほぅ、やはり其方には素質があるようじゃの、良い着眼点じゃ。破戒僧とは自らが体験した感情をこの世界に体現することを目的としておる。ただ、この世に示すのじゃ、己が感じたことを、のぅ」


 自分が感じたことをこの世に体現する?


「じゃあ、爺さんは何を感じて何をこの世に体現するんだ?」


「ほっほっほ、やはり気になるかのう、まあ見せてやることも吝かではない。久方ぶりの人であるし、儂の弟子でもあるからのう。

 では、見せてやろう。じゃが、これで最後じゃぞ? 儂のは少し疲れるし、お主に取られては敵わんからのう」


 あぁ、爺さんは俺に技を取られることを懸念してたのか。でも、天の声さんが言うには他の仙人からしか技は奪えないんじゃないか? まあ、その辺もおいおい分かってくるだろう。


「見せてやろう、儂の奥義を! 【心界支配:虚無】」


 爺さんの言葉が聞こえてきたと同時に俺は見知らぬ空間にいた。


 いや、見知らぬというのは適切ではないか、ここは虚無の世界いや、心界だ。まあ、心界がなんなのか知らないがこの空間のことを言ってるんだろう。


 そして、俺は爺さんが発動した心界に囚われている状態と言ったところか。なるほど、これがこの世に自らが感じたことを体現するということか。確かにここは虚無だ。何もなく、何も考える気にもならない。俺は必死に分割思考を使ってるけどな。


 この世の中というのは、詰まるところ他者だ。要するに、他人に自分の気持ちを強制的に体験させる、ということだろうな。


「おい、爺さん。この力はその邪神とやらによるものだろう? そいつは何が目的なんだ?」


「儂も随分と前に疑問に思って聞いたことがあったのう。邪神はこの世の中に混沌をご所望のようじゃ」

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