第531話 無響の間


 うぉおおおおおおおおーー!!!


 俺はただただ叫んでいた。なんの意味もなく、ただ体の中にある気持ち悪さを吐き出したかった。叫んでいる途中、いつか読んだ古典の中に、叫びまくって死んでいた人がいたようなことを思い出し、そのまま死んでしまってもいいやと、思うようになった。


 叫び続け、声が出ているのかも分からなくなり、唾液や、血液、もはや内臓すらぶちまけるのではないか、と錯覚するまでに至った。


 そんな感覚に襲われるようになってからどのくらいが経っただろうか、しかし、その一瞬のような、永遠のような時間も唐突に終わりを告げた。


 ッバリーーン!


 世界が割れた、いや、破れた。


「ほう、無音、いや無響の間から一人で抜け出すとは、お主、やりおるのう。常人であれば、数刻と持たぬ間に精神に異常をきたし、その後すぐに発狂することとなるだろう、その間から。数人であれば抜け出すことも可能じゃろうが、それでも数日、長ければ一週間をゆうに超える。発狂すれば自害するか、一生そこで過ごすこととなったであろうに、なぜ出てこれたのか、運が良かっただけか、それとも……」


 世界が割れたあと、俺の目の前には一人の老人がいた。最初は何を言っているのか全く理解できなかったが、遅れて言葉が理解できた。


 あまりに久しぶりに耳を使ったため、脳の処理が遅れたのだろうか。


 それに、この爺さんは興味深いことを言った。一人では到底無理、数人でも脱出には日単位で時間が必要になると、ではなぜ俺は出ることができたのだろうか。


 それに、俺は爺さんの言う、精神に異常をきたし、発狂寸前にまで行っていた気がする。つまり、爺さんの言っていることは真実も含まれているということだ。


 俺も気になるな、なぜあそこから出れたのか。


「ほっほっほ、その顔はお主も分かっておらぬようじゃの。お主が今までおった場所は無響の間というのじゃ。そこは内部の音を完全に吸収するのじゃ。まあ、それでも限界がある為、ずっと喋っておればいずれその間が破壊されるということじゃ、まあ、雑談程度じゃと、一週間以上はかかるってことじゃな」


 爺さんは俺が聞く前にスラスラと答えてくれた。敵を目の前にして、スラスラと説明するということは、ただのじゃべりたがりの可能性と、もしくは……


「ホッホッホー、なぜこれほどまで喋るのか、という顔をしておるのう、それは……」


 それは、まあ、察しがつく。こういうのは大体ここで始末するから、というのが相場で決まってるからな。


「それを話す前に、一つ言わねばならぬことがあるのう。それは、この儂が修行していた時のことまで遡る。儂が修行をしていた頃、神のお告げがあったのじゃ、それも邪神からじゃ、儂が仰天している間にここに連れてこられ、一つの言いつけをしてどっかへ行ってしまわれた。もう、遥か昔のことで怒りという感情もないのじゃが、その当時は酷く憤慨していた気もするのう。まあ、とっくに世を捨てておるから、未練もないが」


 お、おう。この爺さんめちゃくちゃ喋るじゃねーか。そんなに喋らなくてもフラグ立ってるから、早く戦闘始めようぜ。まだ余韻で変な感じが残っているから早く体動かしてスッキリしたいんだよ、こっちは。


「すまんすまん、そう急ぐでない。まあ、少しおしゃべりが過ぎたかのう、久しぶりの人であったから興奮しておったのかもしれん。では、本題に入ろう、その邪神からの言いつけとは、、『この間から出てきたものがお前の弟子となる、ちゃんと面倒を見るのだぞ』というものじゃ」


 あ、邪神ってもしかしてこの邪の祠の? へー、って、え?


「よろしく頼む、儂は破戒僧のクラーゼという」



ーーー職業が〈破戒僧〉に変更されました。


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