第517話 キングサーモン
今まで食べてきたサーモン達はどれも一つとして同じものはなかった。
レッドサーモンは身は紅蓮のように赤く、身もプリプリで脂と完全にマッチしていたし、ホワイトサーモンはオレンジ色でいかにもサーモンだった。シルバーはシルバーで身は柔らかく、脂も控えめで食べやすかったな。
トラウトサーモンは鮮やかなオレンジ色で脂のノリもちょうどよく、非常に食べやすかった。そしてアトランティック、脂の量が凄まじく、これぞトロ、という貫禄であった。
これらの数々のサーモン達を前座に最後に待っていたのが、この、キングサーモン、、鮭の王だ。
その堂々たる姿は自分こそが頂点に立つものだと、言わんばかりの威光を放っていた。これぞ、これぞ王なのだと、体全体から伝えてくるような錯覚すら放っている。
ここまで来て俺もタダで帰るわけにはいかない。俺も男としての矜恃は持ち合わせているつもりだ。全力で手合わせ願おう。
「キェええええーー!」
到底魚から発せられたとは思えないほどの鳴き声を発したキングは、今までのサーモン通り、単身で突っ込んでくるのかと思いきや、まさかの配下を使って、突進させてきた。その数、、、多すぎてわからないほどだ。
今まで、俺が捌いてきたしゃけ達が群をなして俺に襲いかかってくる。俺は、一匹たりとも逃さずに捌いていく。誰も取りこぼさない。高級食材は俺のもんだ!
意識を加速させる系のスキルはもうとっくに発動している。その上で、
「【藕断糸連】、【斬法十四手】!!」
藕断糸連は、一瞬の内に放った攻撃を纏めて解き放つスキル、そしてそれに俺の斬法を乗せて!
「はぁあああああああっ!!」
俺は一瞬で大量の鮭軍団を刺身に変え、アイテムボックスにしまった。これはあとで美味しく頂くぞ!
ふぅ、どうだ、俺の斬法は、流石のキングサーモンでも驚いただろう。そう思ってキングを見ると、その顔にあった表情は、余裕、の二文字だった。
「キェえええエエエエーーー!!」
その鳴き声を合図に更なる数の大群が押し寄せてきた。俺はもう、考えることをやめた。ただ目の前にある高級素材を捌いてはしまう。それだけを考えてひたすら手足を動かし続けた。
もう、何度目の号令かも分からなくなった時、終わりが訪れた。
鮭達の襲撃が止んだのだ。これで残るはキングとの一騎討ち。俺はもう、考えることもできないモンスターになっていた。だが、俺の剣はまだいうことを聞いてくれていた。
「くらえぇえええええ!!!!」
ジャギンッ!
俺はこの手でついに手に入れた。キングサーモンの刺身を。もう。俺はほぼ無意識に口の中に運んでいた。更なる美味を求めて。そして……
「うっ……」
俺はその場に崩れ落ちた。そして気づくと俺は、邪の祠の島の沿岸に立っていた。
え、俺死んだの?
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