第516話 寿司と鮭


 サーモンの刺身をタダで食べることができた俺は大満足だった。


 近年、日本の寿司ブームが世界的に激化したのだ。もともと、人気があった日本の寿司ではあるが、ある一人の世界的インフルエンサーにより、寿司の本来の姿が全世界に共有され、爆発的に人気が出たのだ。


 日本に訪れる外国人は止まることを知らず、海外にもちゃんとした日本の寿司屋が乱立し始めた。今ではどの国に行っても寿司は食べられるようになった。


 だが、そこである一つの問題が発生した。それは、材料である魚の価値の高騰だ。海を近くに持つ国々はその海を軸に魚の乱獲を始め、海を持たぬ国は養殖業に力を入れ始めた。それでも排他的経済水域を守らない国は続出し始めるし、正当な寿司を装った詐欺なんかも横行し始めていた。


 そこで現れたのが、世界寿司機構、略してWSIだった。


 WSIは寿司の店舗の経営を認可制にすることによって、ブランドを生み出し、差別化を図ることで世界の魚資源を守ろうとした。だがその結果、寿司の値段があり得ないくらいに飛び上がり、今では一部の富裕層しか嗜むことしかできなくなったのは、また別のお話。


 まあ、そんなこんなで今魚の刺身を食えるっていうのは非常にラッキーだ。これが知れればもう、世界のみんなVRはじめればいいのにな。太らないし。


 一つもったいないのは、醤油が今手元にないことだな。俺は醤油が好きなんだ。


 よし、まあいいか。とりあえず先に進もう。ここが予想通り、魚のダンジョンならまだまだたくさん魚の刺身は食えるだおるからな!


〈Lv.350 レッドサーモン〉


 お、またサーモンだな。まじでラッキーすぎるな。これは食うしかないだろ! 俺はまたも斬法を使って美味しくいただいた。その後も、


〈Lv.350 シルバーサーモン〉


「うんまーー!!」


〈Lv.350 サーモントラウト〉


「まいうー!」


〈Lv.350 アトランティックサーモン〉


「うますぎるううう!」


 って、おい! サーモンに偏りすぎじゃねーか? もうここまでくると完全に魚の階層じゃなくて、サーモンの階層だろ! まあどれも旨いし、しかも味も微妙に違うから飽きずに食べれるんだが、そろそろ胃もたれしてきた。サーモンって一度にこんなに食うと胃もたれするんだな。脂のりすぎだろ……


 それでもサーモンは俺の前に現れ続けた。時には複数体で現れ、突進し、俺に鮭の食べ比べコースを振る舞ってくれたりもした。


 だが刺身だけはきついのでできる限りのアレンジをしたが、もう、もーう限界だ。俺は胃の容量は無限大だが、気分が悪いのだ。もう、食べたくない。食べたくないが、目の前に高級食材が浮いてたら食べざるを得ないだろ? 仕方ないのだ。


 よし、最後だ、もう終わりだろ、終わりにしてくれ、そう思っていると、俺の目の前に一際大きなサーモンが現れた。


「お、お前は……!」


〈Lv.350 キングサーモン〉


 食うしかねーじゃねーかよぉーーー!!

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