第492話 久方ぶりの全力


 俺は、従魔であるデトに策を弄するまでもないと言われた。


 俺は、相手を見た目で判断し、物理攻撃は効かないんじゃないかと無意識にそう思ってしまった。


 だからこそ俺は目の前の敵に正面から立ち向かうのだ。


 そうだよな、俺は相手のことを一度も殴りも斬りもせず、最初の一撃を食らったことで、勝手に無理だろうと決めつけてしまっていた。


 せめて、やれるとこまでやってみよう。


「【怒髪衝天】、【明烏止風】、【筋骨隆々】、【魔闘支配】!」


 怒髪衝天はSTRとVITを3.5倍に、明烏止風は自身のSTRとAGIを倍加し、相手のそれらを半減させる。筋骨隆々は消費魔力によって好きな筋肉を肥大化させる。今回は俊敏性を高める為に脚の筋肉と、攻撃の威力を上げる為に腕と胸の筋肉を肥大化させている。


 そして最後の魔闘支配は、魔闘練気を自身に纏うものだ。魔気と闘気の比率は丁度五分、半分半分だな。


 先ほど迄は驚異にすらなり得ない雑魚虫が、急に自身の命を脅かす存在になった気持ちはどうだろうか。


 俺ら人間で言うと、いつもは気にしてないアリが突如、巨大化し大軍で攻めてくるようなものだろうか。


 おっと、また思考が逸れてしまった。この癖は直さないとこの邪の祠でやられてしまうかもしれない。


 だが、この勝負はいただくぞ。元来、確かに俺は肉弾戦がメインだったよな。ゴミステータスを称号の力で強くして、更にバフを掛けて一気に畳み掛ける。これが俺の本来の戦い方だった。


 それなのに気づくといつの間にか変な戦術を使ってしまっていた。まあ、別に悪いことではないのだろうが、初心に帰ることもたまには必要なのだろう。まあ、それを思い出させてくれたデトには感謝しかない。


 では、決着をつけようか、オーガサイクロプス。


「グゥアアアアアアアアアアア!!」


 俺と目が合うと、今までで一番の咆哮を放った。しかし、距離もあってVITも上がっている俺にはダメージは無かった。まあ、攻撃性の咆哮ではなかったというだけかもしれないが。


 そして、相手の顔つきもどこか変わったように見える。一つ目だから分かりにくいが、恐らくこれが最後だと、野生の勘で感じ取ったのだろう。


 全開の本気なんて久しぶりな気がする。こんな気分を味わえる、いや思い出せるとはサイクロプスにも感謝だな。


 オーガサイクロプスは初手と同じように、俺に向かって一直線に向かって突進してきた。恐らくそのまま棍棒で殴りつけてくるのだろう。


 だが、甘いな。お前のSTRは下がっているのだ。そして、俺のは逆に上がっている。


 ヒュン


 まるで、瞬間移動するかの如くサイクロプスの顔前に姿を現した。


「グゥア!?」


 そりゃ、驚くだろうな。だが、これで終わりだ。


 グシャッ

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